レジスタンスに、七都が凛々子の形見の剣を持っていったのは、先刻の百合子の言葉の所為かもしれなかった。

 柄に巻かれた赤い美しい布。鞘は黒く艶を帯びていて、それが上等なものであることは、七都にもわかっていた。

『七都は剣を持ったこともない、普通の女の子だもの』

 胸の裡に反芻される百合子の言葉。

 七都は、自分が幼い頃から、凛々子に剣の手ほどきを受けていたことを誰にも言わなかった。

 そうと言えば、凛々子の代わりに人々に祭り上げられてしまうこともあり得ると思っていた。母の代わりなどごめんだった。

「凛々子の持っていた剣?」

 群青がのぞき込んで、言った。

「うん」

「どうしたの、そんなものを持って」

「なんとなく。見てみたくなったの」

 七都は鞘から剣を抜いた。碌に手入れもしていないというのに、剣はくもってはおらず、鏡面のように七都の顔を映して光っていた。

 注意深く、刃先に七都は触れてみる。金属の感触。そしてぞっとするようにつめたい、刃の断面。このようなものが、人間の肉を、骨を断つのかと、それを思い描いただけで背筋が凍る。

「つめたくて、怖い」

「……そうだね」

 凛々子から多少の剣の技を教え込まれた、とは言っても、実戦で使ったことなどなかったし、本物の剣をこうして間近で眺める機会も少なかった。

「おかあさんは、こんなものを持って、誰かと斬り合ったりしてたのね」

 凛々子は強かったが、それでも長く続いていた第一都との戦の日々の中で、全く無傷でいたわけではなかった。七都も、凛々子が戦場で受けた真新しい傷を見たことがあった。凛々子は、これくらい平気よと言って笑ったけれど、見ていた七都が泣いた。とても痛そうだったので。

「家でだったら、包丁だってひとにむけたりはしないのに」

「うん」

「どうかしてる、こんなもの……」

 七都が溜息をついて、剣を鞘に収めた。

「そうだね。……ほんとうに、僕もそう思うよ」

 そう言う群青が、これほど穏やかに見えても、レジスタンスの中でも有数の腕利きだと言うことは聞いて知っていた。或いは凛々子に次ぐほどの腕を持っているとも。