百合子は洗濯物の入った大きなたらいを抱えて歩いていた。今日は天気がいい。絶好の洗濯日和だ。

 窓から外を眺めると、遠くに山が見える。よほど晴れないと、ここからその景色は見えない。ぼんやりと見えるその場所は、とても遠いのだ。山、というものを、近くで百合子は見たことがない。

「百合子、落としているわ」

 百合子がふり向くと、聖羅が濡れた洗濯物を持っていた。

「あら、ごめんなさい、ありがとう聖羅」

「いいえ」

 聖羅が微笑んで、百合子の持っている洗濯物の山の上に、それを乗せた。

「わたしも、手伝おうかしら?」

「ううん、平気。聖羅もやらなくちゃいけない仕事、まだいっぱい残っているでしょう」

「そう? それじゃあ……」

 そう言って、聖羅が踵を返した。百合子はもう一度、窓から山を眺めて、そして今度は洗濯物を落とさないように、注意深く歩き出した。

「百合子、だいじょうぶ!?」

 今度は七都が、部屋からにぎやかに顔を出した。

「そんなにいっぱい一度に持ったら危ないよ」

 言うが早いが、背伸びをして七都は、百合子の持っていた山を半分ほど崩して、抱え上げる。

「洗濯物、そんなふうに持ったら七都の服が濡れちゃうわ」

「平気、夏だからすぐ乾くよ」

 そう言って先に立って歩き出した七都は、着替えて外へ出る支度をすませていた。

「どこかへ行くの?」

 その答えは予想できていたが、百合子は七都に訊ねた。

「うん、レジスタンスに」

「そう……」

 七都がここへ来てから、もう二ヶ月にもなるだろうか。七都は毎日レジスタンスへ足を運んでいる。

 七都は元来あかるい性質らしく、その生命力が現実の悲しみを凌駕してしまうのだろう。はじめはひどく沈んでいたものだったが、時間が経つにつれて元気になった。夜に思い出したように泣いていることが、今でもたまにあるけれど、それでも来たばかりの頃のように、一日中ぼんやりしていることはなかった。