「今日はどこへ?」

「あなたと同じ、レジスタンスのひとのところ」

 静は自分から積極的にレジスタンスに関わることはなかったが、戦闘地帯である三街で娼婦をしている、ということと、由可が女将である娼館にいる、という事情から、レジスタンスの男たちが客であることも多かった。

「戦にゆくひとは、もう一度出会えるとは限らない。また会えるかと私に聞いたひとの幾人がもうこの世から消えているかしら」

 静も群青も、平和な世界というものを知らない。ひとが簡単に唐突に死んでゆく世界にしか生きたことがない。出会った頃からそうだった。はじめて会ったのは、静の母が世を去った朝だったし、一度きり共に過ごした夜は、群青の母が死んだ日だった。

「私はあなたの姿が見えないたびに思うのよ。あなたの噂を聞かないあいだはいつでも心配しているの。もう群青もこの世にいないのではないかしらと」

「まだ生きているよ」

「そうみたいね。安心したわ」

 静が微笑した。

 このような境遇にあるにもかかわらず、静はずっと昔から変わらずに、清爽な美しさを保ち続ける。第七都の花街の娼婦には、そういった女が少なくない。なぜだろう、と群青は、静の澄んだ風鈴の音のような声を聞きながら思っていた。

 いつでも彼女は、冬の朝の、つめたい空気のように清冽だ。

「そろそろ行かないと」

 静がのぼりゆく月の傾きを見て言った。

「引き留めてしまったね、ごめん」

「いいのよ。今日はうれしかった。また会えたらいいわね」

「ああ」

 静は別れ際にはいつも言うのだった。その気になれば簡単に会えるのに、また会おう、とは言わない。

 互いにいつこの世界を去ってゆくものか、わからない者同士であるからかも知れなかった。

 去ってゆく静の後ろ姿を、少しのあいだ群青は見送った。