「すみません……」

「あなたの所為ではないわ、群青」

 七都は教会にたどり着くなり部屋に籠もってしまい、そのまま出てこない。

「こうなるのではないかと思っていたから」

 平然と大シスターは言い、お茶をすすった。外はもう暗く、星が出ていた。雲はなく、けれど月は出ていない。新月だ。

「帰り道が今日は暗いわね。だいじょうぶかしら、群青?」

「ええ……平気です。慣れていますから。こんな時間まですみません。夕食までいただいてしまって」

「気にしないで。ひとり分増えたところで、大した手間ではないのだし。それより、今日は表通りを通って帰った方がいいわ。もう早い時間ではないから」

「そうします」

 群青は七都の部屋のある方を見た。七都は夕食にも出てこなかった。灯りがついていれば、扉の間からわずかに光が洩れるのだけど、その様子はない。もしかしたらもう眠ってしまったかも知れなかった。

「七都ならだいじょうぶよ、群青」

 目線の先を追って、大シスターが言った。

「葛藤があるのは仕方がないでしょう。母親が自分を捨てて、第七都のために死んだと、そういうふうに考えているのであれば」

「けれどそうではないのに」

「そうね。そのことに、遅かれ早かれ、七都も気付くときが来るのよ。だから大丈夫」

 そうであればいいと、群青も思う。大シスターは鷹揚にかまえている。

 多少潔癖なところがある百合子とは違い、大シスターはおおらかで大様な印象がある。物事に対してのキャパシティーが広い。そんな姿勢が、きっと今の七都にはきっとよい方向に働くであろうと、群青は考えるのだった。

「それじゃあそろそろ」

 群青は腰を上げた。

「ええ、気をつけて」

 いっしょに大シスターも立ち上がり、玄関まで送りに出てくれた。見送る大シスターに軽く頭を下げ、木々に囲まれた暗い夜道へと踏み出す。今宵は月がまだ細いので、辺りが暗い。群青は大シスターに言われたとおり、近い裏道を使わず、表通りまで出た。