唐突に奥の扉が開いて、少し太った女性が出てきた。

「群青じゃない。どうしたの今日は早いねえ……あれ?」

 女性が七都に目をとめるなり、驚いて声をあげた。

「七都、七都じゃない」

「由可おばさん?!」

 そこにいたのは、七都がよく見知っていた人物だった。凛々子の親友で、幾度となく家に遊びにも来ていた。

「なんでおばさんこんなところにいるの!?」

「なんでってだって、ここレジスタンスの本拠地だもん、あたしがいたって何もおかしくないでしょ」

「あっそうか」

 考えてみればそれもそうだった。由可は凛々子の第七都での最も古い友人で、レジスタンスに関わりがあることも、七都でさえずっと昔から知っていた。

「誰? 由可」

 由可の後ろにまだ数人いるらしく、部屋の中から声が聞こえてきていた。由可が後ろを向いて、凛々子の娘だ、と答えた。途端、突然にその場が騒がしくなった。七都は嫌な予感を覚え、そばの扉の裏に隠れようとした。

「凛々子の娘だって!」

「七都」

 群青が七都を背後に隠そうとしたが、見る間に人だかりができてしまった。

「凛々子の娘? ほんとうに似てる!」

「きっといつか凛々子みたいに……」

「凛々子は忘れ形見をレジスタンスに残してくれたのか」

「もういない凛々子の代わりに、この子なら……」

 さまざまな、そして勝手な雑音が、聞き取れない数七都の耳を通り過ぎる。まただ、と七都は思った。

 第七都を歩いているとこんなことがよくある。母に縁があったものに会うと大概こんな目に遭うのだった。いつもいつもいつも。

「やめてよ!」

 耳を塞いで七都は叫んだ。周囲がしんと静まった。

「七都」

「あたしは凛々子じゃない! おかあさんはもういないし、あたしは関係ないから第七都のために何かしたりはしない!」

 七都はくるりと振り向くと、扉を全力で開けた。壁にぶつかりドアが大きな音を立てる。群青がその後を追った。

「七都、待って!」

 その声を聞かずに七都は、早足で、逃げるようにレジスタンスの基地を離れた。