その家から数分ほど歩くと、瓦礫と見紛うような街の中心近くに、四角い見慣れない建物が建っていた。

「あれ何。変な建物」

 七都がその建物を指さした。

「あれが、レジスタンスの本拠地だよ、七都。みんなが基地って呼んでる建物。コンクリートっていうものを使って、鉄の柱を立てて作った昔の建物なんだって。壁の穴や折れそうな柱を修理して、ずっと使っているらしい」

 それは豆腐のように四角い、大きな建物だった。窓は正確に四方形に切り取られていて、雨戸をはめられるような溝がなかった。

「窓、雨戸が入らないね」

「うん。昔は玻璃で蓋をしていたらしいんだけど」

「玻璃ってお金持ちの家の窓にあるっていう、透明な雨戸?」

「そうだよ。硝子ともいうね。雨戸ではないけれど」

「玻璃なんて、第七都にあったんだ?!」

「第七都も、第一都もなかった頃は、家の窓はどこも玻璃でできていたらしいから」

「そっか……第七都とか、第一都がなかった頃もあったんだよね」

 母に聞いたことがあったな、と七都は思い出していた。昔、この国はもっと自由で、すべてのひとが平等であることが法で定められていた、そんな時代があったこと。七都にはそれは夢物語のような話で、とても信じられなかった。それがどんなものなのか、想像すらできなかった。

 群青が少し重たそうにドアを開けた。

「靴は脱がなくていいよ」

 群青が扉を押さえ、七都を先に入らせて閉めた。

「群青?」

 扉がひとつ開いて、少し陽に焼けた肌をした、褐色の髪の青年が出てきた。

「尚釉。今日は仕事じゃなかったのか?」

「まだ途中なんだけど、通りがかったから、昼飯でも食べていこうかと思ってさ。なんだ、可愛い子連れて」

「ああ、ちょっと用事があって連れてきたんだ。お姉さんが行方不明で、今三街の教会にいる」

「三街の教会? 俺今魚屋の配達で行って来たところだけど」

 群青と尚釉が話している間、七都は建物の中をぐるりと見渡していた。密閉されている所為か、薄暗く空気が少しひんやりしている。厚そうな壁。土壁とも違う、頑丈そうな建物。廊下には左右に扉がついていて、階段が上へと伸びていた。