群青と七都は、並んで歩いていた。初夏の太陽はもうだいぶ熱くて、七都は空を見上げて眩しそうに目を細めた。

「疲れた?馬に乗ってくればよかったね」

「ううん、だいじょうぶ」

 群青が七都にむける穏やかなやさしさは、身に突然さまざまなことが降りかかり、考えることに疲れてしまった七都にとって心地よいものだった。

 群青は歩幅の短い七都にあわせて、ゆっくりと歩いてくれていた。それに気づいて、七都が群青の足元を見た。

「あれ、群青は青い輪、してないんだ?」

「ああ、僕の戸籍は、第七都にはないから」

「ええ?」

 七都は少し驚いた。

「それなのにどうして、群青は第七都なんかにいるの?」

「どうしてだろうね。好きだからかな」

「第七都が?! 好きなの?」

「そうだよ」

 穏やかに笑む群青を見て、七都はふと凛々子の言葉を思い出していた。

『七都、おかあさんね、第七都が大好きなの。この都に住む人たちが大好き。だから生まれてくる子供に、この都の名前をつけようって決めてたの。七都って』

 人として扱われない、最も低い身分の人々が住む第七都。七都の名を聞くたびに人は、どうしてそんな名前を、と不思議がる。

「あたしのおかあさんも同じようなこと言ってたわ。でもあたしにはわからない。おかあさんが第七都を好きなのは勝手だけど。あたしにまでこんな名前つけて」

「七都は、第七都が好きじゃないの?」

 群青の問いに、七都は間髪入れず答えた。

「好きなわけないわ。あたしだって他の都で生まれたかった。そうすればこんな鬱陶しい青い輪をつけることもなく、理不尽に他都の奴に嫌がらせされることも脅かされることもなかっただろうし、それに……優花だって、いなくならなかったかもしれない」

「うん……確かに、そうだったかもしれないね……。でも第七都に生まれてしまったものは仕方がないよね」