「七都、どこへ行くの?」

 前日まで部屋から出ようとさえしなかった七都が、外へ出ていこうとしているのを見て、百合子が声をかけた。

「群青と一緒に、レジスタンスの基地に行ってみる。優花のこと、手がかりがつかめるかも知れないから」

「レジスタンス?」

 百合子の声が固くなった。箒で床を掃く手を止めて、聖羅がその様子を、少し遠くから見ていた。

「群青が探してくれているでしょう? 七都まで行くことはないわ」

「うん……だけど、あたしも優花を探したいの」

「けれどあそこは大人ばかりだし。第三都の中央を通らなくてはいけないから危ないもの。群青がきっと探してくれるわ、ね、七都」

 百合子は七都をレジスタンスに行かせまいと、懸命に説得しようとしていた。けれど七都は首を振らない。

「百合子、あたし自分で行きたいの。レジスタンスってどんなところだか、ずっと行ってみたかった。あたしの知らないおかあさんのことがわかるかもしれない。どうしていつもあたしのことを置いていったのか。もしかしてわかるかもしれない……。だからあたしはおかあさんのいた場所に行きたいのよ。自分の目で見たいの」

 部屋でぼんやりしていたときの七都と、自分の意志を持って話す七都の印象は、だいぶ違っていた。まっすぐにあげた瞳が光を映してきらきらしている。止められない勢いを持っていた。案外意志の強い子なのかも知れない、と聖羅は思った。

「あたし行ってくるね。群青もいるから平気!」

「七都、待って」

 制止しようとした百合子の手を振り払って、七都は玄関に駆けていった。

「七都!」

 ばたん、と木の大きな扉を開き、七都が出てゆく。それを追おうとした百合子の肩を、大シスターが軽くたたいた。

「百合子」

「……大シスター」

「行かせてあげなさいな。レジスタンスで何を見ようとも聞こうとも、結局は七都が自分で考えて、これからどうするか考えなければならないのだから」

「けれど……」

 百合子は不安そうに、七都の出ていった扉を見ている。聖羅はそれに背を向けて中断していた掃除を再開した。