「おかあさんはあたしたちのおかあさんだったけれど。いつの間にかあたしたちのじゃない、みんなものものになって、そして死んじゃったわ」

 炎に蹂躙されて、焼かれた街。これからも続くであろうその地獄の有様と引き替えるための条件が、凛々子の身柄を第一都に差し出すことだった。それを断るならば残った二街、三街も、燃え落ちたふたつの街と同じ運命をたどることになると宣告され、凛々子がそれを、無視できるはずはなかった。

 レジスタンスの人々は、凛々子を第一都に渡すことなどしない、武力を集め、魔女にこれ以上第七都を荒らすことなどさせないと息巻いたが、それは現実的ではなかった。もしそれがかなうことであるのなら、一街も四街もあれほど無惨に焼かれずに済んでいたはずだった。

 凛々子を捕らえることも倒すこともかなわなかった第一都側の、卑怯な、作戦とも言えぬ作戦であったが、そうして漸く、第一都は英凛々子を討つことに成功したのだった。

「おかあさん、あたしと優花が、こんなふうにかなしい思いするの知ってたはずなのに」

「……」

「おかあさんなんてきらいよ」

 七都の、まだ多少のあどけなさが残る顔が、おとなびた翳りを帯びる。

「……七都」

 やさしく手をさしのべて、群青が七都の頬に触れて、いたわるように撫でた。

「さみしかった?」

 七都は答えなかった。

「きっと凛々子も、同じだったよ」

「……そんなことわからない」

 うつむいた七都の髪が、肩からこぼれて風に揺れた。