つめたい朝の空気の中、七都はひとりきり目を覚ました。
いつもと同じ朝。ただ、目覚める場所が違っていて、そして優花がいない。
二段ベッドの下段で眠っていた聖羅は先に起きたらしく、部屋にはいなかった。目をこすりながら七都は身を起こし、裸足でベッドから降りると、窓にはめられていた雨戸を外した。
「……わ」
朝の陽が洪水のようにあふれ、七都は思わず一瞬目をつぶった。まだ濡れたままの葉が瑞々しく、空は澄み切って晴れていた。水滴が太陽の光を反射してきらきらと光る。
七都は目を細めて、美しい、真夏の朝の風景を見上げる。
木枠の窓から手をのばし、大木の枝の先に触れる。七都の手にはじかれて葉から朝露が飛び散った。
七都はその葉を指でつまんで、初夏の朝の風景を眺めていた。母も姉もここにはいなくて、けれど朝はこうして変わらずやってくるし、景色の美しさも変わらない。そのことを、七都はどうしてだろうと不思議に思う。自分にとっての世界は自分の目で見ることができる範囲、それがすべてのはずなのに、これほど重大な出来事が自分を襲っても、世界は少しも変わらなく見えてしまう。
そのとき、木々がしなり重なり合って音を立てた。その奥から、唐突に人が現れて、窓から外を眺めている七都に気付き笑みを向けた。
「おはよう」
深い青の瞳がやさしくゆるむ。
「……おはよう」
七都もつられて、少し笑った。緑の中からあらわれた、群青の金の髪が光をこぼして、子どもの頃に聞いたおとぎ話の、王子様みたいだと七都は思った。
「七都のお姉さん、探しているんだけど、なかなか手がかりがないんだ。……ごめん」
「ううん……」
「レジスタンスの人たちもこの辺には多いから、彼らにも聞いてみようと思っているんだ」
「レジスタンス?」
聞き慣れた言葉に、七都のぼんやりしていた黒い瞳が焦点を結んだ。
いつもと同じ朝。ただ、目覚める場所が違っていて、そして優花がいない。
二段ベッドの下段で眠っていた聖羅は先に起きたらしく、部屋にはいなかった。目をこすりながら七都は身を起こし、裸足でベッドから降りると、窓にはめられていた雨戸を外した。
「……わ」
朝の陽が洪水のようにあふれ、七都は思わず一瞬目をつぶった。まだ濡れたままの葉が瑞々しく、空は澄み切って晴れていた。水滴が太陽の光を反射してきらきらと光る。
七都は目を細めて、美しい、真夏の朝の風景を見上げる。
木枠の窓から手をのばし、大木の枝の先に触れる。七都の手にはじかれて葉から朝露が飛び散った。
七都はその葉を指でつまんで、初夏の朝の風景を眺めていた。母も姉もここにはいなくて、けれど朝はこうして変わらずやってくるし、景色の美しさも変わらない。そのことを、七都はどうしてだろうと不思議に思う。自分にとっての世界は自分の目で見ることができる範囲、それがすべてのはずなのに、これほど重大な出来事が自分を襲っても、世界は少しも変わらなく見えてしまう。
そのとき、木々がしなり重なり合って音を立てた。その奥から、唐突に人が現れて、窓から外を眺めている七都に気付き笑みを向けた。
「おはよう」
深い青の瞳がやさしくゆるむ。
「……おはよう」
七都もつられて、少し笑った。緑の中からあらわれた、群青の金の髪が光をこぼして、子どもの頃に聞いたおとぎ話の、王子様みたいだと七都は思った。
「七都のお姉さん、探しているんだけど、なかなか手がかりがないんだ。……ごめん」
「ううん……」
「レジスタンスの人たちもこの辺には多いから、彼らにも聞いてみようと思っているんだ」
「レジスタンス?」
聞き慣れた言葉に、七都のぼんやりしていた黒い瞳が焦点を結んだ。
