その時。七都が聖羅を見上げて、唐突に口を開いた。

「……もう眠っちゃうの?」

 突然七都に声をかけられて聖羅は、少し驚いた。

「……ええ」

「そう……」

 聖羅が答えると、七都がうつむいてしまい、それを見た聖羅は困ってしまった。この子に関わりたくないのに。何か放っておけなくなってしまう。

「……眠らないの?」

「ううん、寝るけど……」

 床を見つめる七都の伏せた瞳と、力の入らない肩がどこか頼りなく、この子を抱きしめてあげたいと、そんな衝動に駆られた。安心させてあげたいと。そして、そんな感情を自分が持っていたということに、聖羅は驚いた。

 唐突に七都が顔を上げた。

 表情を半分隠していた髪が、肩から滑り落ちる。

 聖羅は動けずそれを眺めていた。見つめてくる瞳が、あまりに強く透明な光を放ち、なのにそれがきずついた様子で心細げにゆれるから。

 絡まった視線をはずせなくなってしまった聖羅に、七都は何かを言いかけて、けれどそれを言葉にする前に、またうつむいてしまった。

「……あたし、眠るね」

 七都はそう言って立ち上がり、子どもじみたしぐさで爪の先を噛んだ。

「……」

 二段ベッドの上段へよじ登る七都を、聖羅は無言で眺めていた。

「おやすみなさい」

 布団を顔の半分ほどまでかぶって、七都がこちら側に背を向けたまま言った。

「……おやすみなさい」

 聖羅はちいさな声で答えたあと、三つあった部屋の灯りを吹き消した。途端、空間を切り取られたように暗闇が辺りを覆う。灯りはほとんど差し込まない、真暗い部屋の中を、常人より極端に優れた視力を持つ聖羅は、何にぶつかることもなく通り抜け、自分のベッドにもぐりこんだ。

 目を閉じると、どっと疲れが聖羅を襲った。過剰に緊張していたらしい。

 珍しいことだわ、聖羅はそう思いながら、数秒後には眠りに落ちていた。