第七都の人々の置かれている状況を、昔、母によく説き聞かされた。
他都の人間と簡単に区別が付くように、足首に填めさせられる青い輪。かつてこの国がまだ外の国々との関わりがあった頃に、占領した土地から住民を奴隷として攫い、逃げてもすぐにわかるように足首に輪を填めたという。その風習が今第七都にこうして残っているのだと。
七都は足を持ち上げて振った。そしてまたぱたんと床に落とす。こん、と床にぶつかり音を立てる青い輪。
母は、第七都に生きることは何も恥じることではないと言い張り、輪を隠そうとしなかったが、大方の第七都の人たちは、なんとかこの足首の枷が見えないようにと、裾の長い服を着るなどして隠していた。その風潮自体が第七都の象徴のようにすらなっていたので、足の輪を隠すことなど無意味ではあったけれど、それでも隠すのが普通だった。
七都も同じように、足首まですっぽりと隠れるスカートをはいていた。ずるずると引きずってしまいかねない長さの、こんな重たげな服を、七都とて好んで着ているわけではなかった。年頃の少女だ、もっと可愛らしく着飾ってみたいと思うこともあった。
母の言ったとおり、第七都が長く続くこの戦に勝ちをおさめて、この足首の輪を外すことができたら、何もかもが変わるのだろうか?
第七都に生まれた、というその理由だけで、理不尽な思いをこどもの頃から数え切れないくらい味わっていた。自分だけではない。姉も、身近な友達も。誰もがそういう経験をしていた。そのたびに七都は泣き、悔しがって地団駄を踏んだ。この現実を動かしたいと、その方法がないのかと、幼い頃からずっと七都はそのことを考えていた。
けれど今は、そのことさえどうでもよかった。ずっと厭ってきた第七都の住人という身分だけれど、今そのレッテルがなくなったところで、自分が突然幸せになれると考えることができない。
何もかもをなくしたように、心がからっぽだった。胸に大きな穴があいていて、どうしたらそれをふさげるのか見当もつかない。
「七都」
百合子の声が遠くから聞こえた。
「ごはんよ、いらっしゃい」
七都は大きくない声で、はあい、と返事をして、長い服の裾を引きずって立ち上がった。
他都の人間と簡単に区別が付くように、足首に填めさせられる青い輪。かつてこの国がまだ外の国々との関わりがあった頃に、占領した土地から住民を奴隷として攫い、逃げてもすぐにわかるように足首に輪を填めたという。その風習が今第七都にこうして残っているのだと。
七都は足を持ち上げて振った。そしてまたぱたんと床に落とす。こん、と床にぶつかり音を立てる青い輪。
母は、第七都に生きることは何も恥じることではないと言い張り、輪を隠そうとしなかったが、大方の第七都の人たちは、なんとかこの足首の枷が見えないようにと、裾の長い服を着るなどして隠していた。その風潮自体が第七都の象徴のようにすらなっていたので、足の輪を隠すことなど無意味ではあったけれど、それでも隠すのが普通だった。
七都も同じように、足首まですっぽりと隠れるスカートをはいていた。ずるずると引きずってしまいかねない長さの、こんな重たげな服を、七都とて好んで着ているわけではなかった。年頃の少女だ、もっと可愛らしく着飾ってみたいと思うこともあった。
母の言ったとおり、第七都が長く続くこの戦に勝ちをおさめて、この足首の輪を外すことができたら、何もかもが変わるのだろうか?
第七都に生まれた、というその理由だけで、理不尽な思いをこどもの頃から数え切れないくらい味わっていた。自分だけではない。姉も、身近な友達も。誰もがそういう経験をしていた。そのたびに七都は泣き、悔しがって地団駄を踏んだ。この現実を動かしたいと、その方法がないのかと、幼い頃からずっと七都はそのことを考えていた。
けれど今は、そのことさえどうでもよかった。ずっと厭ってきた第七都の住人という身分だけれど、今そのレッテルがなくなったところで、自分が突然幸せになれると考えることができない。
何もかもをなくしたように、心がからっぽだった。胸に大きな穴があいていて、どうしたらそれをふさげるのか見当もつかない。
「七都」
百合子の声が遠くから聞こえた。
「ごはんよ、いらっしゃい」
七都は大きくない声で、はあい、と返事をして、長い服の裾を引きずって立ち上がった。
