大シスターは、ずいぶんと昔から七都の母を見知っていた。彼女は若い時分より、時折教会にも足を運んでいたので。

 聖堂でひとりきり祈る凛々子を幾度も見た。教会を訪れるときに彼女は、いつでも迷いの晴れない顔をしていた。彼女が何を祈っていたのかは知らない。自分は神に仕える身であるけれど、神ではないから。

「あの子は凛々子に似ているわね……」

「だからと言って、同じ道をたどるとは限らないし、それに七都は皆が言うほど、凛々子には似ていませんわ」

「……」

 凛々子に似ていない、と百合子は言うが、それをそうと本気で彼女が考えていないことは明らかだった。百合子も不安を感じているのだろうと大シスターは思う。七都が戦乱に巻き込まれてゆく、未来のヴィジョンが、彼女にもほんとうは、簡単に見えてしまっているのだろう。

 大シスターには予感があった。ひとは自分の力だけを信じたく思うものだけれど、運命の流れというものは確実に存在していて、その渦は多分七都を巻き込んで離さないだろう。凛々子がまるでそうだったように。

 七都はあまりにも凛々子に似ていて。凛々子と同じ道を選んでゆくのではないかと、そう思わずにいられない。それは顔形、声、そういったものばかりではないのだった。七都という存在をを作りあげる要素が、そのためのみちすじが、すでに凛々子に似通っているように思えた。

 それが自分だけの錯覚ではないとしたら、きっと同じように感じた多くの人々が、七都にもういない凛々子の姿をかさねてしまうだろう。

 大シスターは決して予言者でも超能力者でもない。が、年相応にさまざまなことを見聞きし、経験して、物事がどのような方向に進んでゆくものかが、わかってしまうこともある。それはどちらかといえば勘に近いものであったが。それでも歳を取れば取るほど、それは外れなくなってゆくものだ。

 けれど、それとは別に、百合子のある意味狭量でもある、けれど理想を信じたいと願うその潔癖さも、愛おしく思えるのだった。

 ゆえに大シスターは、思ったことを口にはせず、百合子の肩をそっと抱いた。

「そうね、そうだといいわね……」