ぼんやりと七都は瞳をあげる。
窓からひらひらと入ってきたのは、白い蝶だった。
膝を抱えて七都は、その蝶を眺めていた。ひらりと舞う蝶を、ゆっくりと七都の視線が追う。
窓の外は晴れていて、木漏れ日は木々の葉を透かし、七都の顔にも光を零していた。
七都が教会に転がり込んで、数日が経っていた。
群青が優花をさがしてくれているようだったが、それでも手がかりはつかめない。二街の家に帰っているようなら知らせてくれと、二街に住む知人に頼んでくれたというけれど、やはり家にも戻っていないようだ。
目の前で舞う蝶から、七都は視線をついと外した。
部屋の外では物音が絶え間なく聞こえる。シスターたちは、いつでも忙しく立ち働いていた。廊下に繋がるドアは開け放したままで、百合子や大シスターは、そこを通るたびに、七都の様子を見ながら声をかけてゆく。
それでも七都はひとりきりだった。
なぜなら、その足音のすべてが、七都の待っているものではなかったから。
もしもそれがシスターたちのものではなくて、母や姉のそれであったなら、自分は今すぐにでも跳ね起きて、後を追いかけて走るだろう。
七都は目を閉じた。風景を遮断すれば、錯覚ができる。今自分がいるこの場所は、教会ではなく長く住み慣れた自分たちの家なのだと。トントンと聞こえる足音はシスターではなく母のものなのだと。
七都は目を閉ざしたまま、ちいさな声で歌った。母がよく口ずさんだ歌を。
外から薪を割る音が聞こえる。鳥の声も。
こうしていればあのころと何も変わらないように思えるのに。
七都は目を開いて、そこが自分の家でないことを確認したあと、また少し泣いた。
窓からひらひらと入ってきたのは、白い蝶だった。
膝を抱えて七都は、その蝶を眺めていた。ひらりと舞う蝶を、ゆっくりと七都の視線が追う。
窓の外は晴れていて、木漏れ日は木々の葉を透かし、七都の顔にも光を零していた。
七都が教会に転がり込んで、数日が経っていた。
群青が優花をさがしてくれているようだったが、それでも手がかりはつかめない。二街の家に帰っているようなら知らせてくれと、二街に住む知人に頼んでくれたというけれど、やはり家にも戻っていないようだ。
目の前で舞う蝶から、七都は視線をついと外した。
部屋の外では物音が絶え間なく聞こえる。シスターたちは、いつでも忙しく立ち働いていた。廊下に繋がるドアは開け放したままで、百合子や大シスターは、そこを通るたびに、七都の様子を見ながら声をかけてゆく。
それでも七都はひとりきりだった。
なぜなら、その足音のすべてが、七都の待っているものではなかったから。
もしもそれがシスターたちのものではなくて、母や姉のそれであったなら、自分は今すぐにでも跳ね起きて、後を追いかけて走るだろう。
七都は目を閉じた。風景を遮断すれば、錯覚ができる。今自分がいるこの場所は、教会ではなく長く住み慣れた自分たちの家なのだと。トントンと聞こえる足音はシスターではなく母のものなのだと。
七都は目を閉ざしたまま、ちいさな声で歌った。母がよく口ずさんだ歌を。
外から薪を割る音が聞こえる。鳥の声も。
こうしていればあのころと何も変わらないように思えるのに。
七都は目を開いて、そこが自分の家でないことを確認したあと、また少し泣いた。
