「……落ち着いた? 七都」

 食堂の長テーブルの、いちばん端に座った七都は疲れ果てた様子で、もう暴れたりはしなかった。

 百合子が薬箱を開けて、七都のすりむいた膝を消毒液で拭いてくれた。大シスターが七都の横に座り、肩をやさしく抱いてくれる。

 ひとり、聖羅だけは七都に近づいてこようとはせず、遠く離れた場所に黙って立っていた。

 七都は何も答えなかった。思考を停止して、現実と向き合いたくなかったのだった。

「きっとだいじょうぶよ、あなたがここにこうして無事でいるんだもの、お姉さんもどこかで、きっと誰かにたすけてもらっているはずよ……」

 大シスターが言う。

「…………」

 それが気休めに過ぎないということを、シスターも、七都もわかっていた。

 激しく壁を叩いていた雨の音はいつの間にか止んでいた。

 疲れ果てて七都の頭はぼんやりしていた。眠りましょう、という大シスターの言葉に虚ろに頷いて顔を上げると、部屋のいちばんすみの、明かりもあまり届かない薄暗い窓際に立っていた、聖羅と目があった。ずっとこちらを見ていたのだろうか。視線が絡まった瞬間に、聖羅の透き通るように透明な、意志を感じさせない瞳に、恐怖とも困惑ともつかないゆらぎが生まれた。