雨戸がきちんとはまりきっていない廊下の窓から、雨が吹き込み廊下が濡れていた。その水たまりに足をすべらせて、七都が転んだ。

「痛っ……」

 転んだ拍子に部屋の扉にぶつかり、がたんと大きな音がする。

「まあ、どうしたの!」

 玄関の手前の食堂の扉が開き、大シスターが駆け寄ってきた。

「ゆうかが」

 七都がすりむいた膝を抱えて、起きあがった。七都のぶつかった扉から、騒がしさに何事かと聖羅と百合子が出てきた。

「ひとりで優花、あたしを探してるかも知れない、あたし戻らなきゃ……!」

 立ち上がった七都は駆け出そうとする。その腕を大シスターが慌ててつかんだ。

「お待ちなさい、こんな雨の中に」

「その雨の中に優花がいるかも知れないのに!」

 大シスターの手を振り払おうと、七都が暴れる。なだめようと近づいた百合子の頬を、振り回した手が引っ掻いた。

「離して!」

「こんな激しい雨の夜に、外にいるはずがないわ、もしも無事だったら、あなたと同じようにどこかできっと保護されているはずよ、落ち着いて」

「いや、あたし行かなきゃ、離して……!」

 両手を振り回し、足を踏みならして逃れようとする七都を、漸く、大シスターが両手で抱えるようにして、おさえこんだ。それでもまだ、そこから身を捩って逃げようとしていた七都が、わあああ、と大声を上げて泣きだした。

 聖羅が、その一連の出来事を、一歩離れた場所から、凍りついたような瞳で見つめていた。