第七都。この国でいちばん身分の低い者たちが住まう場所。ひととしての権利を与えられず、保護されることもない。たとえば他都の人間が第七都の者に危害を加えても何ら罪には問われない。ゆえに第七都の者たちは自分の身をまもるために、滅多なことでは第七都以外の人間と交わる場所へは行かない。

 頻繁に他都の人間と交わる大通の商人たちは、自分たちで身を守るすべを持っているが、たとえ客としてでも、大通は丸腰でなんの準備もせずに訪れるべき場所ではなかった。

 七都たちも、それを知らずに大通へ行ったわけではない。けれど母を失い、姉妹はそれでも生活してゆかねばならなかった。凛々子の遺したいくつかのものを売り、ここでしか手に入れられない必要なものを買うために、ふたりは大通へ来たのだった。そして危ないからと七都を一本手前の筋道に残して、優花はひとり大通りへ出て行った。

 最後に見た後ろ姿が瞼の裏に浮かぶ。もしも今、待っていてねと言われたあの場所に、姉が戻って自分を探していたらと。そんな妄想にも近い希望が七都の胸のうちを満たしてゆく。

 いてもたってもいられなくなり、七都はベッドから飛び降りた。部屋のドアを開けて、裸足で廊下を走る。

 あの場所へ戻ろう、優花が自分を待っているかもしれない。この雨の中、一人きり、さっき優花を探して彷徨い泣いた自分のように、もしかしてあの場所で優花が。