ひゅう、と風の唸る音が聞こえる。

 教会の建物はそれほど頑丈ではないらしく、強い風が吹くとその度にゆれて、七都の眠るベッドの足を、ぎし、と軋ませた。

 眠る場所が安全でないことを怖いとは思わなかった。自分は何処でも寝られると、そんな神経の太さを自慢に思っていた、なのに今日はとても寝付けない。

 ベッドが揺れるたびに七都は、シーツの裾を掴んだ。

 違う、今まで何処にいても心細くなかったのは、ひとりではなかったからだ。母がいなくなってからは姉が。自分はいつも誰かにまもられていた、そして今初めて、ほんとうの孤独の中に放り出されたのだ。

 雨戸を填めた窓を、強い雨がひっきりなしに叩いていた。

 昼間買い物に行ったまま戻らなかった優花。何故。

 その問いに答えを見つけようとすれば、いくつかの可能性を頭に描くことは容易だった、けれどそのどれもが、姉の身に降りかかった現実だと思うには恐ろしすぎて、無意識のうちに希望的観測へと逃避する。

 この激しい雨の中でもしかしたら、さっきはぐれたあの場所で姉が自分を探しているかも知れない。

 あの場所でただちょっとはぐれてしまっただけで、姉の方こそが自分のことを探しているかも知れないと。

 その可能性は、冷静に考えたならばありえないと言っていいようなものだった。優花とはぐれてから数時間の間、七都は待ち、辺りを探し、それでも優花と出会えなかったのだから。

 大通とは第七都の商業の中心地だ。第七都のひとだけでなく、様々な身分の様々な人間が出入りする。

 とはいえそれほどに込み入った場所ではない。なにごともなければ、はぐれてそのまま数時間も会えないなどということは起こらない。

 優花が何らかの事件に巻き込まれた可能性は高かった。