……今日は惣介さんと初めて過ごすバレンタインデー。

どうしても今日という日に“あるもの”を渡したくて、私は思い切って惣介さんを夕食に誘った。

今日は平日だけど金曜日だし、家に帰るのが少しくらい遅くなっても問題ないよね?と勇気を出して。

こんな日に誘うなんて、“バレンタインデーを意識してます”ってバレバレだと思うけど……。

バレンタインだけに、バレバレ……


「……さん?琴音さん?」

「えっ?」


親父ギャグが頭の中をぐるぐると回り始めた私の目の前にひょこっと惣介さんの顔が現れた瞬間、私は惣介さんに呼ばれていたことに気付いた。

ずいっと顔を覗き込まれて、すごく近くなったその顔の距離にドキッと心臓が跳ねた。


「……琴音さん。」

「はっ、はいっ」

「……。」

「あああ、あの……っ?」

「……何考えごとしてるんですか?」

「へっ?や、な、何でも……」


私の心の中を読むかのように真っ直ぐと向いている惣介さんの視線が何だか恥ずかしくて、そして咄嗟に「何でもない」と誤魔化してしまったことが何だか気まずくて、私はつい目を伏せてしまう。

でも、ハッとあることに気付く。

しまった……、今が話を切り出すチャンスだったんじゃ……!

渡したいものがあるんです、って言える絶好のタイミングだったのに……!

私のバカ~!