そう、こんな滅茶苦茶遠い学校をわざわざ選択した理由。
どうか笑わないで聞いてほしい。
好きな人がいる。
ただそれだけの理由で俺はこの学校を選んだんだ。ひとつ上の先輩。名前は西村沙耶さん。吹奏楽部に所属していた彼女。
俺が中学二年の時、地元のお祭りでマーチングしているところを偶然見かけ、その姿に一目惚れしたのだ。以来、話す機会もなくずるずるとそんな恥ずかしい甘酸っぱい想いをひきずっているというわけだ。
けんちゃんは、はっきり言うと高校デビューした。周りの人間に影響されやすい彼は入学2ヶ月でもう彼女ができていた。髪の色が変わったのもその頃だ。何でも、有名なバンドの人と名前が似ているんだそうな。だからって、髪を同じ色にするのはどうなのだろうか。そう言うと、けんちゃんは燐太郎は本当に頭固いよなーと言われた。自分ってものをちゃんと持っていると言ってほしいな全く。
という感じで、けんちゃんには会うたび会うたびこんな感じで発破をかけられるのだ。
「俺は何もしないより、そう言うことやった方が絶対いいと思うぜ?よく言うじゃん、やらない善よりやる偽善って」
なんだよそれはじめて聞いたよ。っていうかちょっと意味違うよ。頭そんなよくないんだから又聞き知識あんまり使うなよ。
「お、おぅ…まぁ…考えとくよ。」
脳内で思ったことは口には出さずに、受け流す。日々の説教のお陰で受け流すのだけは上手になったよ。思うだけなら、タダなんですよ。
「頑張れよー!?お前、折角同じ学校に入れたのに話も出来ないまま先輩卒業とか、悲しすぎるだろ…。」
その通り。今こんなつらい思い(朝起きる方ね)しているのに、そんなのはあんまりだ。でも、じゃあ…俺は、どうするべきなのだろうか。わからない。
何か、きっかけがあれば。変わるだろうか。
…いや、ないだろうな。ないない。


