ないすとぅみーとぅゆー



教室へ戻ると、先程とうってかわって随分と騒々しい。俺の席は廊下側の一番後ろ。…ん?ちょっと待て、さっきは全然気にしなかったが、俺の名前はアマセリンタロウだぞ?普通最初の席というのは五十音順になっているものだ。つもりこのクラスにはアマセよりまえのあ行の人間が四人もいるという事だ。俺はその事実に驚愕しつつ、席につき新しいクラスメイトを見渡してみる。顔は知ってる程度の男達、誰かわからない化粧をした女達。これは…顔と名前を一致させるのに時間が掛かりそうだ。



やがて担任が教室へ入ってくると、LHRが始まる。
簡単な業務連絡を淡々と聞き流し、やがてまたどうでもいい思考に没頭していった。


…なるほど、秋山、明智、阿部、天城で甘瀬か…珍しいこともあるもんだ。


うちの学校は1年から2年になる時だけクラス替えがある。つまり今ここにいるメンツと2年間を共にしなければいけないわけで。いち早くグループを把握しなければならず、早速俺はこの休憩時間中にどういう立ち位置でいるべきかを考えていた。

「初日から遅刻とか流石だな、燐太郎。」

ふと、声を掛けられた。そちらを見ると見知った顔。
少しきつい目、更に頑なそうな黒縁眼鏡。きゅっと結ばれた口元は今は少し緩んでいる。そんな彼は…

林…林俊太君じゃないか!!

俺はめんどくさいこの学校で、このクラスで、校内一番の親友を発見することが出来た。この喜びといったらない。なんならキャッホイと叫んでみてもいい。しかし、そんな感情さえも押し殺し、俺はいつも通りのやり取りになるように声をつくった。いや、だってほら…恥ずかしいからね。

「ははは…休み気分が抜けなくて…俊太君と同じクラスだったのか。よかったよかった。」

頭をポリポリ掻きながら、そう言った。俊太君はキリッとした姿勢で眼鏡を中指で押し上げて、

「ホント、僕も君と一緒で良かったよ。またぼっちからスタートはきついからな。帰宅部のコミュ力をなめてもらっちゃ困るよまったく。」

そして、深い安堵の溜め息を吐いた。俺もつられて息を吐く。





俊太君とは高校1年生からの付き合いだ。入学当初、俺は中学から続けていたバスケット部(万年補欠だったが)に入ろうと思っていたが、体育館に部活動見学へいき、絶句した。入った瞬間に飛び交う罵声、怒号、身体は俺の2倍くらい大きかった。俺は素直に思った。ここで死んでしまうくらいなら、今後の為にバイトでもしよう…と。
下駄箱で大きな溜め息を吐いた時、俺と同じタイミングで溜め息を吐く変わった髪型の男がいた。下駄箱の位置的に同じクラスぽかったので、俺は思わず声をかけてしまった。

「部活、見に行ってたの?」

俺の声に勢いよく肩をびくつかせた彼を見て、俺は思ったのだ。「あ、友達になれそう…と」

それが俊太君だった。強面の彼に話しかけることが出来たのは、きっとこの瞬間だけだっただろう。

「う…っ!?う、うん。野球部を見に行ってたんだ。でも、入るのは止めたんだ。先輩方皆凄い怖かったし…まぁ、決め手だったのは、全員坊主ってのが無理だな~って。もう帰宅部でいーやーって思ってさ…君は?」

二人で並んで学校を出る。俺は先程思った事を告げた。

「そーか。バスケットは身体ぶつかるもんな…怖いよね。…なんか、僕達上手くやっていけそうだね。ここの下駄箱てことは、同じクラスだね。僕は林俊太。宜しくね。」

「俺は甘瀬燐太郎。宜しく、俊太君。」

二人がっちり握手を交わす。高校で一番最初の挫折だったが、それと共に一番最初に友達が出来た日でもあった。