うう、寒い。
外に出ると、春に吹く強い風が全身を吹き抜ける。この時期は晴れてても風が強いから寒く感じることが多い。まぁ、この街は年中肌寒いところだ。山から吹く風と海から吹く風とが春夏秋冬で順繰り吹くものだから、よく言うと安定してる。
今は恐らくそんなの関係なく、陽が昇って間もないってのが正解だろうけど。
それにしたって気合いを入れすぎただろうか。こう早いともしかしなくても俺の方が早く学校つくんじゃあないだろうか。いや、折角だ、ポジティブに思考しろ。朝練へ向かう先輩とご対面してそして先輩がハンカチを落としてそれを俺が拾いそして「これ…落としましたよ?」って言ってクールにアイウォンチューしてそして「あ、ありがとうございます…なにかお礼を…」ってなって「いやなに、偶然通り掛かっただけですよ。」とか言っちゃって「ステキっ」みたいな展開。…ねーよ。いつの時代の少女漫画だよっ。妄想のクオリティが朝ドラレベルだよっ。いや、たまぁーにみたくなるよね、朝ドラ。昼ドラはドロドロしてるのが多いけど朝は割りと爽やかだったりするんだよな。
下らない妄想を続けるうち駅に到着した。始発は行ったみたいだけど、まだホームは目覚めて間もないようで、その空気はどこか陰鬱としている。日陰になっているからだろうか。静かな早朝の風にやや無機質な場内アナウンスが香る。何となく寂しいこの空気は、俺は嫌いではない。
携帯を開く。時刻は6時少し前。
うん。学校開いてるといいな。


