「お兄ちゃんって、ホンっとネガティブだよね…」
優の言葉はチクチクと俺の胸に突き刺さる。結局1日中悶々としたまま過ごしていたら家に帰ってきていた。俊太君には、「体調が悪いなら無理せず帰った方がいいよ」と心配されてしまう始末だ。
それで、帰宅後もねちねちねちゃねちゃし、なんならこのまま溶けて防御をぐーんとあげてもいいくらいになっている俺に先ほどの言葉が振り掛けられたわけである。
「…はぁ…勘弁してくれよ優…今日一日かけて凹んでたんだから」
優はたたっと素早く俺の座る二人掛けソファを半分陣取り詰め寄ってくる。
「そうはいってもお兄ちゃん?上手くいってもいかなくても、行動を起こさなきゃ可能性ゼロ、なんだよ!?まだ話したこと無いなら、尚更!いきなり告白したりする訳じゃないんだしっ。考えすぎ!まず一回話して、覚えてもらって、知ってもらわないと!!お兄ちゃんのこと。ただでさえ影薄いんだから。」
至極正論この上ないですね。しかし、それさえも危ういんだぜ。つーか最後余計だろ、フォローする気あんのかはっきりしてくれ…辛いから。今はそれ辛いから。今はそれほんとに辛いから。
「よ、世の中…0か100しかないわけじゃないと思うんだ…。」
「はぁ?意味わかんないよお兄ちゃん。逃げてちゃダメダメ。よっぽど変なこと言わない限り、嫌われたりしないんだから。」
だよな。何言ってんだろうな俺。苦し紛れに吐いた台詞はなんの脈略もなく。そらそーだよな。嫌われる訳じゃないんだから…という流れになる。んー、でもなんだろ、そういうことじゃない気がする。ただ、単純に変わってしまうことが怖いだけなのかもしれない。大なり小なり、この行動は自分を変えるだろうから。って、すでに後ろ向きだ。誰か俺の背中に目をつけてくれーぃ。そうしたら、ムーンウォークで歩いても前が見えるはず。
「…そーだ!!明日もう一回朝早く行ったら、いるかもよ?練習してたんでしょ?ってことは、毎日練習してるのかも。早起きして行ってみたら?」
優が頭上に電球マークを出して、そんな提案をしてきた。こいつめ、俺が早起きするように仕向けてやがる。
だけど、いるかもわからなければ起きれるかもわからない(爆)。朝練なら邪魔しちゃあ悪いし、話もしにくい。
うーん…。
少しだけ、考える。
しかし、何もしなければ結局先輩は憧れで終わってしまうのだ。テレビのアイドルに恋するように。それだけは、やっぱり嫌だった。
……よしっ、明日だけ、もう一回だけ、早起きするか。行ってみるだけだ。もしいっていなかったら体調不良で帰ろう。いいよねそれで。オレガンバッタ。
「…優。お願いがあるんだけど。」
優は俺の言葉に顔をニヤつかせながら、親指を立てた。どうやらみなまで言うなと言うことのようだ。
「まっかせて!!起こしてあげるよ!でも、自分で起きる努力もしないとだめなんだからねっ?自分でつかんだ幸せじゃなきゃ、本当の幸せじゃないんだから」
…うん。お前歳幾つだよっという突っ込みはやぼだな。
「へーへー。わかりましたよ。…それじゃあ寝るわ。おやすみ。」
「おやすみーって早っっ!?まだ19時だよ!?」
そんな声が聞こえたが気にしない。
やると決めたのだ。やらねば。


