春の麗らかなる風は、優しさと眩しさで自身の身体を包み、心地よい安らぎを与えてくれる。まぁ麗らかとか、あんまし意味分かっていないんだけれども。加えて言うならば、まだ外は暖かいというにはほど遠く、俺に心地よい安らぎを与えてくれているのは、この身を包むもっこもこの布団だったりする。

カーテンの隙間から僅かに射し込む陽の光が眩しくて目が覚めてしまった。起き上がる為にはこの心地よさを手離さなければならないという窮地(微睡み)の最中、まとまらない頭が思考することは、どうでもいいことばかりだ。

寝返りをうつ。すると、手に当たる硬い物体。恐らくケータイ電話であろうそれを握りしめて自分の眼前へ…。パカッと音を立てて二つ折りの筐体が開く。うっ、眩しい…。液晶のバックライトは薄暗がりの中俺の双眸を刺激する。しかし、二度寝をする為に自らに残されたタイムリミットは把握せねばなるまい。憂鬱ではあるが、学生たるモノ学校に行くのは必然、義務である。それを放棄してしまえば、我々が常日頃蔑んでいるニートという生き物となんら変わりないのだから。


そして、眩しさの中。

思わず俺は呟いてしまったのだ…。

「は…8時…だと……っ?」




甘瀬燐太郎、17歳。高校二年生となる記念すべき登校初日。





遅刻、確定。