「とにかく今は嘘でもいい。弥刀にはお前が次期当主って言っておいてくれないか。あいつまた最近、朝に来やがってよ」
「朝?」
「あいつが中学入ってから最近までずっと、朝俺の部屋に押し掛けてきてよ、当主にしてくれって頼みにくるんだ。司が現れてからはそれが無くなったものの、またやるようになっちまってよー」

困ったように辰巳さんは頭をかいた。
さすが弥刀ちゃん。根性が座っているな。僕は改めて感心してしまった。

「いいよ、今日は保留で。また近い内に来るし」
「あぁそうだ司、お前ぇの自室も要ると思ってよ。2階の奥の部屋、自由に使ってくれて構わねぇ」

ふと僕は想像してみた。
そもそも、2階に行ったことすらない。

「2階の奥の部屋?この家、広すぎて分からないよ」
「大丈夫だ、広いが複雑じゃないからな。」

はっはっはと辰巳さんは豪快に笑った。

僕は重い腰を浮かせる。

僕だって調子が狂っている。
本来なら、こんな面倒事からは何も言わずに逃げているのに。

ちゃんとこうやって、面と向かって断っていることこそが僕らしくない。

おまけに自室まで用意されているんだ。

いよいよ逃げ場が無くなるんじゃないかと思う。


そして僕は、興味本位で2階に上がってみた。

階段を上ってみたものの、やっぱり馬鹿でかいこのお屋敷。
どこが奥でどこが手前なのかさっぱり分からない。
まぁ、奥って言ってたんだから、取り敢えず前に進んでみる。

2階も和装な造りだった。
どの部屋も襖があって、きっちり閉められている。

長い廊下には埃1つ無かった。