「男が生まれるまで頑張れば良かったじゃん」

辰巳さんが顔を上げた。
その顔に笑顔は見られなかった。

あれ、これはまずかったのかな。

「やっとこさできた子供が、我が愛娘、弥刀嬢なんだよ」

辰巳さんは苦笑した。

あぁ、これは聞きたくもない話だった。

「…そうなの」
「まぁ、そう言うこった、あの時からどうせこんな事になるだろうとは思っていたんだよ。今更だ。」

けらけらと辰巳さんは笑って見せた。
が、僕にはそれが嫌に悲しく見えた。

「…とにかく、僕は面倒ごとは御免だよ」
「でもよぉ司、お前ぇちょっとは弥刀の事、気にかけてはいるんだろ?」

にやりと辰巳さんは笑う。どこか不気味な笑みだった。

「…なに」
「あいつは気が強いし、腕っぷしも立つし、やっぱり賀奈子ちゃんと俺の娘、顔は悪
くないだろ?」

いや、辰巳さんは遺伝子に支障をきたしているだけかな、という言葉は飲み込んで。

「辰巳さんは弥刀ちゃんを僕に売るつもりなの?…まぁ、僕に売ったら…分かると思うけど、ちゃんと僕は“かう”からね」

だからこっちも、笑って見せた。

「そんな訳ねぇよ。ただ、司みたいな奴は、弥刀に惹かれやすいんだよ」
「へぇ」

あの、じゃじゃ馬にねぇ。
少し興味が出てきた。