「一応聞くが、どうしてだ」

心臓がいやな音を立てる。
父さんの冷たい眼があたしを捉えて離さない。

あの時司は確実に樹を殺せた。
おそらく一瞬で、簡単に。
司はそれをやってのける覚悟がある。

「…こわくて」
「司が、人を殺すのが? 」

どきり。心臓がまたうるさくなる。


「…弥刀よぉ、そういう世界だぜ、これから足突っ込むところは」


覚悟ができていないのはあたしだ。
そういう危険が伴うのが、当たり前な世界なんだ。
今まで父さんはあたしに少しも見せなかった。

これが、父さんの当主の顔。

「…今回みたいなことは、これから先何回もある。お前、ちゃんと着いてけるか?」

あたしは司を見た。
司もあたしを見下ろしていた。

パン、と父さんは手を叩いた。

「まっ! 時間なんてたっぷりあるんだ。ゆっくり慣れてけ。焦る必要はない」
「そうよ。私だって時間かかったものよ」

父さんはあたしの頭をがしがしと撫でる。
病室の空気は一気に軽くなった。

「ちょっと辰巳さん、この子今頭縫ってるのよ」
「おっ! そーだったそーだった! 悪ぃな」

父さんが手を離すと、無性に頭の傷がずきずきと痛んできた。

「…なにすんだよ、もう…」

思わず笑ってしまった。すっかりいつもの父さんに戻る。
この人の思考回路はどうなってるんだろう。

「わー!!!弥刀ちゃん、頭!」
「え?」

サーーっと額を伝う液体の感触がして、それが血だって分かった瞬間には司がナースコールを連打していた。

「ほら言ったじゃない〜〜もぉ〜、」
「みみみみ弥刀!!大丈夫か!!」

ハンカチであたしの頭を押さえながらからから笑う母さんに、慌てて椅子を倒してしまう父さん。

皆の慌てた様子を見て、あたしの口元は緩んだ。