バタン。
それは割と控えめな音だった。
あんまりに控えめだったから、振りかぶってくる樹に神経が集中しすぎて、あんまり耳に入ってこなかった。
どうやら樹も同じだったようで。
「…ねぇ」
樹の腕が止まる。
勢いよく、声の方を見た。
司の、声だ。あたしは首を回すことが出来ないので、目だけをそちらに遣った。
「…なにしてるの」
あたしの呼吸も止まったみたいだった。
恐らく樹も感じたであろう、冷気。
鳥肌が立ってきた。
「つ、か」
さ、の声は銃声でかき消された。
「…え」
樹が床に倒れ込む。
あたしはもう1度視線を銃声がした方に戻した。
黒いスーツだった。
重々しい、礼服みたいな。
真っ白な頬に血が跳ねてる。茶色に変わってた。
細い手には、小ぶりな銃。
しっかり両手で持たれていた。
「…お前だけは許さない」
キン、と金属音がする。それが一体何であるのかは分からないけど、明らかに司の持っている銃からである。
薄く血の気のない唇が、少し笑った気がした。
小学生の時に、川で蛇を見たのを思い出した。
蛇にしては小さい方の、無毒であるヤマダイショウ。
それでもあたしは一瞬で体が凍りついて、逃げることもしないで、蛇が巣に帰るのをじっと見ていることしか出来なかった。
そんなかんじ。
「まっ、待って!!!」
あたしの掠れた声が地下室に響く。
「待ってよ、司」
こわいのと、いたいのと、司が来たことの安心感とで涙が出てくる。
子供みたいにひっく、と泣いてしまった。
「う、撃たないでよ…」
ここでやっと、樹を見る。
たまたまなのか、左足から血を流していた。
あれ、てっきり死んだものかと思ってた…。

