数分それと戦って、ずるりと指が出ていく。

あたしは咳き込みながらも息を整えた。
涙で顔がよく見えない。

次はなにされるんだ、怖い。

「っ、う、ああああーーーーッ!!!」

喉奥から逞しい声が出る。すごい、自分こんな声が出るんだな、と感心した。

左足。軽く揺すられて、意識が飛ぶかと思った。

「俺、強い女が超タイプ。まさに京極さんみたいな」

上の服を捲られる。

「ハハ、いい腹筋」

左足の痛みに意識を手放さないように、手のひらに爪を立てた。
ついでにそいつの顔を引っ掻く。

「誰にも媚びない、自分で立てる女。まじ、イイと思うよ」

頬に滲む爪痕を撫でる。

「そういう強情なやつを圧倒的な力で踏み付けるのが、最高にたまらない」

ぐ、と体重をかけられる度に言葉になってない痛い、が喉の奥から零れる。

涙と頭の傷の血と鼻血とで悲惨なことになってる。
あー、いっそのこと、気を失いたい。

死ぬ? もしかして死ぬ? これ死ぬんじゃない?
電気の光じゃない、白色が視界にちらちら見える。

太い指があたしの首にかかる。
ぐつ、と力が入ってすぐに酸素が吸えなくなった。

これ、首締められてるのか。

あ、死ぬかも。

あたしはやられっぱなしか。当主になるとか強いとかなんだかんだ言っておいて、結局ここまでなのか。みっともない。

…ふざけんじゃねえ。



「ッ」

樹が真横に吹っ飛んだ。

酸素が吸える。あたしは咳き込む。

左手の拳が熱い。

「…な、んだその力」

樹の顔が鼻血で凄惨なことになってる。

あ、殴ったんだ、あたし。
左手の指の第二関節が切れて、血が滲んでる。
普通に考えて、あたしがどんなに強くても大柄な男をすっ飛ばすのは不可能だ。

これは俗に言うあれだ。
火事場の馬鹿力。

「いいね、まじでそういうのそそる、殺していい?」

樹がゆらりと立ち上がる。もうあたしには1ミリの力も残っていない。
もうこれで、終わりだ。