「どうやったらもっと泣くんだ? 骨を元の位置に戻すとか?」
「や、めろ…っ、はっ、…」

右ストレートが樹に決まった。
その後間髪入れずに左拳が鼻に垂直に入って、樹は鼻血を出す。

「…いーい、パンチ」

手の甲でそれをごしりと拭い、反対側の手を振り上げる。
電気が樹のこめかみあたりに重なる。
眩しくて一瞬樹の顔が暗くなった。

「っ、」

と思ったら、真っ白になる。

重いパンチ。意識があると言うことは加減をしているようだが、あたしの体は少しの間、言うことを聞かなくなる。

「さわるんじゃ、ねぇよ…!!!」

あたしの頬を撫でた指に噛み付く。
既に血で汚れていたので、大変不快な味がする。

「…まじで面白いな」

噛み付いたまま離さないあたしを見て、楽しそうに笑った。
こんな予測できない得体の知れない奴、恐怖でしかない。

「う゛」

ぐい、と指が捩じ込まれる。

「が、…あ」

顎を掴まれ、少しできる隙間からもう1本。
すぐにあたしの喉奥までやってきた。

「ぉえっっ」

ぐ、と舌根を押される。
途端走る吐き気に、あたしは体を曲げた、が、曲げられない。

「…吐けよ」

がしりと髪を掴まれる。顔が動かない。
だけど口に侵入する指は止まらない。

まじで吐くかもしれない。今朝は何食べたっけ。あ、味噌汁だ。これはスプラッタ。

「可愛い、涙止まんないの?」

ごしりと目尻を拭われる。

吐きたい、ここまできたら、いっそのこと吐きたい。
だけど指はそこまで届いていない。こいつ、分かってる。
歯磨きで奥の方まで行ったときにオエッてなるくらいのやつだ。

「ぅ、ぅ… えっ、…ハァ、っえ、おえっ」

涙が髪の毛を濡らしてるのがわかる。
余力で指を噛んでみた。が、それは引く様子を見せなかった。