「先日ボコされて分かったよ、あいつには適わないって。だけどあいつが女を作ってるってことは分かった」
「あたしを司の弱みだと思ってんの?」
「当たり前だろ。お前さえ居ればあいつは迂闊に手が出せない」

あたしが司の弱み。
屈辱だ。足を引っ張る存在になってしまってるんだ、あたしは。

「火緋に喧嘩売ってくれた司に復讐できればなんでもいいと思ってた。最初はお前をかっさらって、レイプでもすればいいだろって考えてたんだけど」

その細い目があたしを見て、びくりとした。なんて物騒なことを考えてたんだ。

「正直、京極さん、超タイプ」

その言葉を聞きながら、あたしは後ろの壁にもたれかかった。
息ができないくらいの痛みに襲われる。
樹の馬鹿でかい手のひらは、あたしの左足…太ももを掴んだ。

「っ、っ、っ、」
「それ、その顔、超いいよ」

ドMだと推定していたあたしは間違えていた。こいつは真逆の人間だ。

「泣いてんの?」
「ああああああ、っ、やめろ、さ、わんな」

いつの間にか滲んでいた涙を拭われる。

「司を苦しませるためだけにレイプするとか、つまらないだろ? 写真で見た時からずっと、京極さんのこう言う顔が見たいと思ってたんだ」

写真ってなんだ、とか聞く前に喉奥から悲鳴が漏れる。
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い。

ぽたりと垂れる血が樹の手の甲に落ちる。

「喧嘩、強いんだって? 暴れると迷惑だから手荒な真似したけど」
「手荒って…、車で、跳ねるか?普通、…アホじゃないの」

樹がからからと笑う。
がらんどうの地下室に気味が悪い声が響いた。

「なぁ、このままヤれねぇ?」

体温がさっと引いた。
どこに興奮しているのだろうか、息が荒い。
骨折した女を痛めつけてどこに性的要素があるのか。すごい思考回路だ。

「や、っだ!!! 痛い痛い痛い痛い、やめろ」

見事に平手を食らい、アスファルトにぶっ倒れる。
その巨漢が腰に乗っかってくれば、左足への直接ダメージは無いがまあまあの痛みである。

痛覚で何も考えられない頭で、あたしは樹を殴る。
駄々っ子みたいな殴り方だけど、ガチ殴りだ。