「な、なに…」

樹の変態臭は本能的に感じとれた。
殴られて喜ぶあたり、ドM? もしかしてあたしをカモに司を呼び出して、殴られたいんじゃ…

突然ずくりと頭の生傷に指が押し付けられた。
声が出なかった。代わりに、あたしの髪を鷲掴んでいるそいつの腕に爪を立てる。

「やめ、ろ!!!」

車に撥ねられた時に切ったであろう脳天付近の生傷は、樹の手によって優しく撫でられる。
ぐつぐつとえげつない音が傷口からするのが分かって、同時に鋭い激痛が走ってくる。

「きったねぇ手、で触んな」

どろりと額の真ん中から鼻に向けて血が流れる。まるで鼻血みたいに鼻先から黒っぽい赤が落ちた。

図らずも息が切れる。体が危険信号出してる自信ある。

「そうそう、それだよ」

樹が顔に垂れまくった血を雑に拭う。

「…は?」

なんとか腕を払い除けた。
この隙に、と距離を離そうとしたが後ろは壁だった。

「そりゃ司は消してぇよ。あいつは昔から邪魔だ」

血で濡れてしまった髪の毛を触られる。ぞわぞわした。