コツリコツリとそいつは近付いてくる。
まるで、あたしが今考えていること、すべて分かっているような。

「なぁ、痛い?」

座っているあたしの目の前に立つ大柄の男はやはり威圧感がある。

馬鹿でかい手のひらが、あたしの左足に近付く。
こいつ、知ってるな。
本能的に体を後ろに引き摺る。

「なんで逃げるの?」

にやにやと気味悪く笑っている猿みたいな顔に、蹴りを御見舞したい。

「来んな」

まだ自由に動かない体は逃げるのにも必死だ。

がしりと足首を掴まれる。

痛いわけじゃないのに、思わず悲鳴が零れた。

「痛い?」

徐々に足首から上の方に手が伸びてくる。
迫ってくる痛みに息が上がってきた。

「ストップ、ストーップ。樹くんは、司くんに恨みがあるんでしょ? たしか、火緋って司1人に潰されたんだよね。たしかそんな話をさっきしてたんだよね? で、どうせ司に復讐しようとか思ってるんでしょ?違う?ねぇ、あたし関係ある?ブッフォ」

言い切った瞬間にでかい手のひらがあたしの頬をぶっ叩く。なんて計算された暴力なんだ。
ぱたりと灰色のアスファルトに血が滲んだ。
塞がりかけていた頭の傷がまた開いたのが分かる。

「…は」

何が起きたかわからない。
あたしに非があることは100パーセントないのに、頭が真っ白になるほど殴られるとは思わなかった。絵にかいたような理不尽。

「京極さん、何か勘違いしてるな」

ぶっ倒れそうになるあたしの髪をがしりと掴む。
あたしの頭は引っ張られている髪の毛を支えにしてぶらりと吊られる。

「司は、二の次。俺は京極さん、お前が目的なんだ」

顔が近付いたと思ったら、薄い唇があたしの頬に触れた。

「?!」

思わず逆にそいつの顔をぶん殴った。

今こいつは何をした。

あたしに殴られた所を撫でながら、樹は大笑いする。

「グーパン…まじで噂どおり、超面白い」
「?!」

あたしは素直に引いた。
殴ったことを怒られるかと思っていた。