「…おい、起きてんのか?」

あたしがずっと無視していたからか、そいつが苛立ち気味に聞いてくる。

勿論、あたしはそいつの顔を知っていた。

以前、司にボコされていたタツルという男だ。

「…一応聞くけど、なんであたしはここに連れてこられてるわけ?ってかここは部屋なの?アスファルトって…」

なんとか上体を起こした。
打撲みたいな痛みは残るけど、左足以外は動かせないことは無い。

男は机に腰掛けながら、にやにやと笑う。

「自己紹介くらいさせろよな。まずは初めまして? 俺は樹」

君は初めましてかもしれないけど、あたしは初めましてじゃないんだよなー。
こめかみで固まっている血をぺりぺりと剥がす。

樹という男は大柄で、一言で言えば筋骨隆々である。顔は反比例して平べったい。
黒いシャツと、ダークグレーのスラックスを着ている。
どうにも声が気持ち悪かった。神経を逆撫でするような。

「で、質問に答えるけど。ここは地下です」
「地下ぁ?マンションに?」

そう言うと、急に得意げそうな顔になる。

「京極さん、火緋って知ってるか?」

あたしはうんざりした。
それでもあたしの方が全てにおいて不利なのは見て取れるので、大人しく知らないふりをして聞いてやる。

聞いたふりをしてる内に、だんだん左足の痛みが強くなってきて、本当に話が頭に入ってこなくなる。

「聞いてる?京極さぁん」

うっるせぇな、と思いながらもあたしは割と従順な態度を見せた。
汗が出てくる。左足が熱を帯びて、体中に広がってくるのが分かる。