「な、なにそれ?!聞いてないし!」
「やだ〜、辰巳さん意地悪ね」

父さんはバシンと箸を置いた。

「ケジメがない。誠実じゃない。」

父さんがあたしの目を捉える。こんな時に、父親の顔じゃない。

「あんなやつは、婿にいらん」
「むっ婿?!」

そこまで考えていなかった。
父の思考に着いていけない。

「でも辰巳さん、司がんばってるじゃない」

母さんは頬杖をついて父を見上げる。
小悪魔だ。

「そりゃ見てわかる。だけど、そんなもんじゃあ弥刀をやれんなぁ」
「やるって…お婿さんでしょ」

母さんの甘えた声に押しが弱くなっている父さんを横目に、あたしは箸を置いた。

「辰巳さん、司推しだったのにねぇ」
「いったんは司が決めたことだ」

母さんに丸め込まれ、12代目の顔が一瞬にして京極弥刀の父親の顔になった。恐るべし小悪魔。

一旦は引いた当主の座、また当主になりたいと言ったんじゃあ、たしかにこの頑固親父ただでは許して貰えないだろう。
父は1回決まったことを変えられるのが嫌いだ。

あの夜から司に会っていない。
朝起きたらしっかりと布団が掛けられていたが、司は居なかった。
甚三伝いに生きていることも聞いているし、毎日この家に顔を出していることも聞いた。(あたしが居ない時間に来ているらしい)
正直、司とのいまの関係がどうなのかも分からない。本人が居ないんじゃあ話も始まらない。

ただ、こうも会えないと少しばかりの苛立ちが自分の中に残るのがまた笑える。
あたしから離れないんじゃなかったのかって。あたしも大概重病かもしれない。