『どんな人と結婚したい??』

結婚。そんな言葉を聞いたのはいつぶりだろうか。
ただの単語なのに、急に恥ずかしくなってきた。

あたしは理想の女の子像を浮かべてみた。


「…あたしが守りたいと思えるような、女の子」


電話越しに、芽瑠が吹き出したのが分かった。
あたしを無視して爆笑し続けている。

「…おい、芽瑠」
『ご、ごめんごめん、あまりにもイケメンだったから…!!ひぃひぃあはははは、いやー、弥刀ちゃんってブレないよね。あぁごめん、脱線しちゃった。
きっとさ、弥刀ちゃんが守りたいって思える人が、弥刀ちゃんに合ってるんだよ』

守りたいって思える人。
どきりとした。

いやでもごっつは一応ボクシングを習っているし、あたしが守らなくても大丈夫そうだ。
もちろん司に至ってもあたしなんかが出る幕がない。と思う。

「男を守りたいって無理がないか…??」
『いやでも、弥刀ちゃんはきっと守られるより守る人だと思うんだよね』

そのまま芽瑠は、お風呂に入るから、と電話を切ってしまった。
一方的だ。無機質な電子音だけが受話器から流れる。
熱くなった携帯を畳の上に放り投げた。

「…守りたい…、人か…」

汗が冷えて、だんだん寒くなってきた。
やっぱり真冬に暖房ナシじゃきついものがある。

あたしは制服を脱いで、着替えてから風呂に向かった。






□ □ □



結局、何も考えることができないまま、あたしは貴重な時間を適当に過ごしてしまった。

昨日は風呂に入って、いつもどおり宿題をして、予習をして、筋トレをして寝た。
どうも何か他ごとをしながら物を考えるということは、あたしの頭の容量ではできないようだ。

あっという間に朝は来る。
何事もなかったかのように、昨日脱いだ制服を今日も着て、いつものように車で学校まで行って、同じ教室に入る。
やっていることはいつもとなんら変わりない。

そう、何も変わらないのに、あたしの心境はどうしてこんなにも落ち着かないのか。

いつも通り一緒に家を出て、甚三の車で学校に向かい、同じ教室に入るまで隣に居る男、司は平然としている。
あたしだけが司と歩くのが気まずくて、あたしだけが気にしているみたいじゃないか。

一言もかわしていないが、彼が何も変わっていないのは分かる。意識しているのはあたしだけだ。ただ変わったといえば、今日も顔の傷が増えていた。