「あ、あの、芽瑠、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」
『聞きたいこと?』

そこではっと気付く。
あれ、聞きたいことってなんだっけ。
何を芽瑠に聞きたいんだっけ。

『…弥刀ちゃあん?』

あたしが何を喋っていいか黙り込んでいると、芽瑠は受話器の向こうで笑った。

『あー!わかった。なるほど、分かった。いつかこの日が来ると思ってたんだよねぇ。神谷くんでしょお』

芽瑠はげらげらと笑っている。声だけ聞いていると、下品だ。

「な、なんで…わかって…」
『え、ほんとお?結構適当に言ったんだけど、当ってた』
「…」

またあたしが黙りこくると、芽瑠は慌てて話を急かした。

『まぁまぁ。それで?どうしたの?告白でもされた?』

芽瑠は全て分かっているような口ぶりだ。
盗聴器があったんじゃないかと不審に思うくらいだ。

「…はい」
『おめでとう』
「…実は、違う人にも告白されて」
『ええ!弥刀ちゃん、モテ期だねぇ。学校一のアイドル神谷くんにあきたらず、他の人からも。贅沢だねぇ』
「そんなんじゃない!!!」
『わかってる、わかってるって』

芽瑠は笑う。
電話じゃ顔は分からないが、絶対に楽しんでいるだろう。

『で??返事はもうしたの?』

いきなり核心をつかれた。

「ま、まだ…」
『返事はね、なるべく早いほうがいいよ。そのほうが、自分も相手も気分が楽でしょお』

さっきまでふざけていたのに、今はまるで悟りをひらいたようだった。
芽瑠の言葉がずしりと重く圧し掛かる。

「…そう、だよね…。でも、分からなくて。…本当に」

気持ちの整理もできていないのに、状況が理解できていないのに、2人に確かな返事ができるわけない。

『大丈夫だよ。弥刀ちゃんがそんなに器用な子じゃないってのは、告白した人も知ってると思う。だから、ゆっくり考えてなるべく早く返事すればいいの』
「意味がわからない!!!」
『あんれれ?』

芽瑠は全く真面目に考えようとしない。
彼女らしいといえばらしいけど、こっちは死活問題だ。

『…弥刀ちゃんが男だったらどうする??女の子2人に告白されて、男の弥刀ちゃんはどうする?』

ごっつと司が女だということを想像しただけで、気分が悪くなった。

「あたしが男ぉ…??」
『そっそ。とりあえず、視点を変えてみるのもいいと思うんだぁ』

あたしが男になったら。あたしが男になったら。