平然と襖を開けて、部屋から出て行く司の背中をただただ呆然と見つめることしかできない。


「つ、つかさ」

後ろ手で襖を閉めようとする司が止まった。
隙間から顔を出す。

司に何を言うのか自分でも分からなかったけど、気付いたら司を呼んでいた。

「ごっつも司も、なんでこんないっぺんに、同時に、答えに困ること…」

司に聞くことじゃないって分かってた。
だけど、どうしようもないこの頭の混乱は、そんなことを考える容量はなかった。

もう1度襖が開いて、司が見える。

司は笑った。


「同時だからでしょ。部長は弥刀ちゃんが好きだから、告白した。僕も弥刀ちゃんが好きだから、告白した」

司ははっきりとそう言ったが、あたしは全く理解ができなかった。
ぼんやりとしていると、司は苦笑する。

「…ほんと、弥刀ちゃんってレアな子だよね。僕は弥刀ちゃんを部長にとられたくないし、部長も僕に弥刀ちゃんをとられたくないってことだよ」

そして笑って、おやすみとだけ言って消えてしまった。

部屋に司の甘い匂いが残る。
彼の口元の大きな傷が目に焼きついていた。

驚きしかない。

あたしの、どこを好きになったんだ?

2人の前で恋愛を意識したことは1度きりともないし、何度も言うが、あたしがもし男だったら、あたしみたいな女とは付き合いたくはない。
自負しているくらい、あたしは自分のいいところが見当たらない。

打ち合いか?殴り合いか?
つり橋効果と言うものがあるし、きっと殴り合いのドキドキ感が恋愛のドキドキ感とあれしてああなっちゃったんじゃないのか?

暖房もきいていない冷えた部屋の隅でひとり、悶々と膝を抱えて考えていても仕方が無い。

あたしは鞄から携帯を取り出した。

困ったときの芽瑠だ。

普段からあまりメールや電話などはしないたちだが、芽瑠なら話せる。
彼女はあたしよりも何倍もの経験値を持っている。

あたしは迷わず芽瑠に電話をかけた。


数回コール音が聞こえて、芽瑠の間の抜けた声が聞こえる。

『はぁい。みとちゃん?珍しいねぇ』

そのいつもとなんら変わりない彼女の様子を想像すると、混乱していた頭が少し落ち着いた。