あまり恋愛について考えないように意識した。
あたしの分からない、そんな未知の世界に足を踏み込んでしまったら、あたしはきっと京極の当主になるべくための決意が揺らぐ。
可愛い女の子に憧れなかったわけじゃない。一生“好きな人”に守られているのに憧れなかったわけじゃない。
いつまでも仲がいい父さんと母さんを見て、うらやましくなかったわけではない。
ただ、そんな考えも吹き飛ばすみたいにあたしを優しく包んで、今まで育ててくれた京極が好きなんだ。
いつか、絶対に京極を引っ張っていけるような人間になりたい。あたしの唯一の夢だ。
あたしに必要なのは、力。筋肉。判断力。
誰よりも強く、誰にも負けないようにしないと。守りたいものが守れない。
一心不乱にダンベルをあげていると、不意に頭にごっつが浮かんだ。
今まで考えていたことが一気に真っ白になった。
そうだ、あたしは恋愛を考えようとしなかった。今まで、遠ざけていた。はずだったんだ。
ごっつはあたしを好きだと言った。
あたしはごっつに“好きではない”と伝えないといけないんだ。ごっつのけじめにも、あたしのけじめにも、その言葉は必要なんだ。
たとえそれが、ごっつを傷つける言葉でも。
ヒーターもきいていない、外と気温がさして変わらない部屋に居るが、あたしは汗を流した。
ゆっくりとダンベルを持ち上げると、それだけ筋肉に負荷がかかる。
この筋肉が、誰かを救うかもしれない。そう思うだけで気分が楽しくなる。
やっと落ち着いてきた。気持ちの整理ができた。
見知ったごっつにいきなり告白されて驚いたけど、明日にはごっつと顔を合わせることができる気がする。
落ち着いて、あたしの気持ちをごっつに言える自信が出てきた。
パン、と襖が開く。
「ねえ、弥刀ちゃん」
「?!」
そこに仁王立ちしていたのは、学ランを脱いだ司だった。
何故か、また顔に殴られたような痣が増えている。
「な、なんで来た」
あたしはそいつのいきなりの登場におどろいて、あげていたダンベルをおろすことも忘れていた。
そいつは構わず近づいてくる。
「第一、勝手に入ってくるな!!礼儀だろ」
あたしは畳の上に座っている。
司は目の前に立っている。
必然的に見下ろされた。
どうも気に食わなくて、あたしはダンベルを置いて立ち上がった。

