「とりあえず、やめて!!」

あたしは思わず組み敷かれている司の頭を庇った。
ただでさえ、怪我をしているのに、ごっつはかなり重いパンチを持っている。

「ちょっと待って、状況がわかんないから」

ごっつも力が抜けたように床にへたり込んだ。

「ちょっと待って、俺も状況がわかんない」
「何で部長が分かってないのさ」
「俺だって勢いで告白しちまったんだよ!誰かさんのせいで!!うおおおおおおお」
「あぁ、勢いだったの」

2人の会話が筒抜ける。
とりあえず顔が熱くなるのはおさまらなかった。

部室の床が冷たくて、体温を下げてくれる。

落ち着こうと深呼吸してみるものの、依然としてその心拍数は煩いままだ。

「…帰る」
「え?」

いきなり立ち上がったあたしを見上げる2人。

あたしはそのまま流れに乗って、部室を飛び出した。 


外に出ると、冬の冷たい風が身にしみる。
火照った体を冷やしてくれるみたいで、心地よかったりもする。

あたしはそのまま走って、学校の外に出る。

まだ心臓がどきどきうるさい。
あたしらしくない。こんなことでうろたえるなんて。

上手く動かない手で携帯を出し、甚三にかける。
早く帰って、早く筋トレがしたい。
なるべく早く、わからないことを忘れたい。

校門の壁に凭れて、息を吐く。
その息は白くなって、空間に溶け込むみたいに消えた。

あれは、告白だったのだろうか。いや、多分そうだ。
生まれて初めて告白というものをされた。
恋愛とは正反対のこのあたしが、告白をされた。

1度忘れよう、と他のことを考えてみるが、どうしてもごっつの顔が出てくる。
その度に、顔が暑くなるのがわかった。

あたしのこと、そんな風に思っていたなんて、気付きもしなかった。

「弥刀ちゃん」

聞き慣れたその声にどきりとした。
振り向く間でもなく、そいつから漂ってくる甘い匂いで誰か分かった。

「…司」
「いきなり逃げるなんて弥刀ちゃんらしくない」
「…逃げてない」

あたしは司を睨んでみせた。
司はいつもみたいにへらりと笑う。

「…知らなかったの」
「え?」

司は笑うのをやめて、あたしを呆れたような目で見下ろした。

「ごっつが弥刀ちゃんのことを好きだってこと」

どきりとした。心臓を掴まれた気分だ。