「俺はなぁ、お前が現れる前から好きだったんだよ!!」
「知らないよ、そんな事」

何を言ってもウケを狙っているようにしか聞こえないごっつのイントネーションをぼんやりと聞きながら、真後ろでつかみ合いをし出す2人をそれまたぼんやりと見た。


ごっつがあたしを好き?

そりゃそうだ、あたしもごっつが好きだ。
先輩面しなくて、強くて、誰よりも努力家なごっつを尊敬している。

ただ、今の状況で、その“好き”じゃないのはあたしだって分かる。


あたしは、その“好き”じゃない。

これは、告白?
女子がよく話している、あの場面か?

その場合、これは告白に対する答えをごっつに返さないといけないってこと?

あたしはごっつが“好き”じゃない、だけど好きだって言わなければならないってこと?

それで、ごっつは傷つくのか。

あたしのことが、好きだから。


そう考えると、急激に顔が熱くなった。


「ほら!!弥刀っちが赤くなってる!!!」
「?!」

司はこの世の終わりかと言う様な顔をしている。
ごっつはあたしを指差している。

その言葉にうまくリアクションをできなくて、顔が余計熱くなってきた。
照れている、という考えを否定したいけど、言葉にならない声が妙に出てきてしまう。

「お前なんかより、ずっと意識されてんだよー!!」

子供が突っかかるようにごっつは言った。

司はごっつに組み敷かれながらも、ちゃっかりその顔を殴る。


ぼんやりと司の顔を見る。

そういえば、深夜よりも怪我が増えていたな。
反対側の口元が、切れていた。

2つ目の殴り痕のようだった。

司は、あたしのことをどう思っているんだろう。
「守りたい」なんて言われたけど、その言葉の意味にそれ以上の理由を感じない。
あたしが弱いから、弱いけど勝手に動くから、危なっかしくて見てられないということのように感じてしまう。

母さんはその「守りたい」という言葉が「好きだ」という意味だと言っていたけど、どうもあたしと司の関係ではそうは思えない。


ごっ、と鈍い音がした。

ごっつの右ストレートが司の切れた口元に入った。


はっとする。