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「うわっ、なんだぁその傷」

ボクシング部の部室を開けると、まずは予想通りの声をあげられた。
剣道部も柔道部も職員室も行ったが、みんな口を揃えて同じことを言う。
特に職員室の数学教師に至っては、あたしを野生動物だと言い放ちやがった。

「く…勲章?」
「アーホーかっ!!!」

あたしが笑って見せると、後ろから現れたごっつに頭を殴られる。
どうやら走ってきたらしく、額に汗を浮かべている。今日もいい笑顔だ。

今日はジムの日かと聞くと、肩で息をしながら首を横に振る。

もうすぐ大会が近い。みんな真剣だ。
まぁどうせ、あたしは大会なんかに出られないけど。そもそも、女子の大会が少ないのと会場が遠いのとでダブルパンチだ。

「部長ぉ、外周行ってきます」
「俺筋トレ」
「おう」

あたしの横を通り過ぎていって、部員達は各々練習場に行く。

あたしも着替えて筋トレでもするか。
ごっつと2人だけになった部室に、エナメルバッグを置いた。

「それ、今日の集会の?」

ごっつは笑いながらあたしの顔をさす。

集会というのは、今日の朝体育館で緊急集会が行われたのだ。

遠足中に起こった事件と、それを助けた司への激励だった。
当の本人司は集会をサボったけど、その噂が広がりに広がってうちのクラスは女子でいっぱいだ。きっと司は教室から一歩も外を出られない。

「ま、まぁね」
「大丈夫だったのか?」

ごっつはタオルで汗を拭きながら、あたしの顔を覗き込む。
切れ長の犯罪者顔は見慣れていて、どうも親近感がある。

「大丈夫だよ、なんもされてない」

あたしは笑ってみせる。

たしかに、痣が酷い色になっている。切り傷は大分塞がってきている。
以前にも痣は作ったことがあるが、それよりは重症じゃない。ただ、見た目がグロテスクだ。
湿布を貼っているが、痣がはみ出てしまう。
女子力の欠片もない。

「じゃああたし、着替えてくる」
「弥刀っち、待てよ」

エナメルからジャージを取り出し、トイレに向かおうとしたとき。
ごっつがあたしの肩を引っ張った。

「ん?何?今日は普通に筋トレするだけだけど」

そうして振り返った時、あたしはごっつのいつもと違う雰囲気を感じた。

「ごっつ?」
「あのさ、弥刀っちって、神谷とどうなの?」

その顔は真剣。
あたしは言葉が出なかった。