「ちょっと人間離れしてるっていうか、…なんだろ」
「まぁ、凶暴なところはあるわよねぇ。あの子。普段温厚だから、逆に怖いし」

母さんの言葉に納得できる。
誰かを殴るときの司は、人間らしくない。感情なんか、まるで無い感じがするんだ。
無機質なところが、逆に怖い。
今日だって、表情を変えずに人を殴っていた。
もしかしたら、笑顔で人を殺せるのかもしれない。

「母さん、弥刀より先に司の事を知ってるけど、あの子変わったわよ」

シャワーでリンスを流す。
排水溝に流れていく様子を、ただぼうっと見ているだけだった。

「最初の頃なんか、警戒心剥き出しの動物みたいだったわ。それを表に出さないで、笑顔なのが怖かったのよねぇ。何で辰巳さんはあんな危険な子、拾ったのかしらって。私わかんなかったわぁ」

ぼんやりと想像してしまう。きっと今より背も低くて、張り付いた笑顔なんだろうなぁとか思ってしまう。あくまでもあたしのイメージだけど。

「だけど、ちょっとずつ会う度に、印象が変わってくるのよ。根は真面目なんだろうなぁ、とか、本当は落ち着いてる子なんだなぁ、とか。それを表現するのがへたくそで、どうしても周りから怖がられるって言うか。それを見て、司は自分から離れようとするのよ。悪循環ってやつぅ?」

シャワーを止めた。
濡れている髪をまとめ上げる。

「“守りたい”なんてストレートに言うなんて、司もだいぶ変わったじゃない。そんな素直な子じゃなかったのに。…きっと、司のあの凶暴性は小さくなることはあるけど、無くなりはしないと思う。その凶暴性も、司の一部なのよ。
面倒見がいい辰巳さんと一緒に居て、色んな人に会ったけど、辰巳さんがあんなに全力で面倒を見てる子なんて初めてだわ。私、司に嫉妬しちゃう」

母さんはふざけたように言った。
その笑顔に癒される。


「まぁ、大いに悩みなさい、私の可愛い弥刀。何かあったら助けてくれる人はこの家にたくさん居る。それがあなたの好きな京極なんでしょう?」

ザバリと浴槽からあがる母さん。

「あんた顔はあたし似なのに、体型の方は遺伝しなかったのね」
「…」

けらけらと笑いながら、母さんは風呂場から出て行ってしまった。

「胸…」

風呂に入ってきたときの悩みは忘れて、違う悩みの方が重く感じた。