メルちゃんって子は弥刀ちゃんがクラスの中で1番仲が良い子だった気がする。
たしかに誘拐されてもおかしくないような容姿。

だけどただの“友達”ってだけで、弥刀ちゃんはどうしてこうも後先考えず動いちゃうのかな。
自分の危険なんて省みないで、ただひたすら突っ走る。
危なっかしいこと極まりない。
僕はもう、彼女にも、京極家にも関わらないつもりでいたのに。
だけど、仕方ない。今のこの安全とは言えない状況を、黙ってみているほど僕も馬鹿じゃない。
少なくとも、今までの恩くらいは返さないと。

「お前、ガキなんだから防弾くらい着ろよ」
「やだよあれ、重いもん」
「んなこと言ってる場合かっつの」
「銃向けられたら逃げるよ」

甚三は横で大きな溜め息をついた。

「殺すなよ。少なくとも1人はねぐらを吐かせるから、意識は繋いどけ」
「ちょっと待って、僕にそんな高度な技術を期待しないで」

キュッと割りと静かな音で車は急に止まった。
どんな運転手であってもベンツだ。性能はさすが。

僕より早く、すぐに甚三は車から降りた。続いて僕も降りる。

1つのぼろ家だった。人が住んでいる気配がない。

この車だな、と甚三は灰色のワゴンのナンバーと車種をチェックして、シャツの腕を捲くった。
みっしりと太い腕が現れる。きっと、あいつは戦車も片手で持ち上げられる馬鹿力なんだ。

「お前はここの窓から入れ、俺は正面から入る」
「了解」
「、?!」

その時、悲鳴が聞こえた。
よく聞きなれた声。弥刀ちゃんだ。

聞きなれた声だけど、弥刀ちゃんが、あの弥刀ちゃんがあんな声を出したのは初めて聞いた。
こっちまで心拍数が上がってくる。
甚三を見ると、血相を変えて僕にこう言った。

「司、早くしろ!!」
「分かってる!!」

少し回ったところに窓はあった。カーテンがしてあって中は見えない。
鍵がかかっている可能性の方が高いだろうけど、僕はその窓を引いてみた。
すると、簡単に窓は開く。
きっと、壊れていたんだろう。

「っ、ああああああああああああ!!!、や、めろ!!やめろ!!っ、」

弥刀ちゃんの声がさっきより、鮮明に聞こえた。
ぞくりとした。
カーテンを避けると、まず見えたのは生白い脚。

「誰だてめぇ!!!」

怒鳴り声と、荒い息遣いが聞こえる。

弥刀ちゃんに馬乗り、というか押さえつけていた茶髪で細身の男が弥刀ちゃんから退く。

「弥刀ちゃん」

声をかけると、彼女はびくりと飛び跳ねた。