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「弥刀ちゃんと芽瑠ちゃんが!!!」

クラスの女子の甲高い声で僕ははっとした。
後ろを振り返ってみると、女の子2人が血相変えて走ってくる。
どうやら、ここから少し離れた食堂まで走るらしい。

「どうしたの?」

片方の腕を取って、引き止める。
よほど驚いているのか、息が荒い。

「今!!ほら、あそこ!!!芽瑠ちゃんが連れてかれるの!」

メルちゃん??犬?
なんて思いながら、僕は指をさされた方を見た。

遠くのほうに、灰色の車。車種はよく見えない。
目を凝らせばナンバーも見れる距離だ。

「弥刀ちゃんが走ってるでしょ!!」

長い黒髪を振り乱して、たしかに弥刀ちゃんは走っていた。
灰色の車にへばりつく。

「…は?」
「きゃああああ!!早く先生に知らせないと…!!」

僕の手を振り払って、女の子は走った。

「おいおい、あれやべーんじゃねーの」

さっきまで一緒に行動していたクラスの友達が、そう言った。

僕が見たのは、黒髪で黒いセーラー服を着た女子高生が、車のボンネットに乗り上げているところだった。
そのまま車は急発進する。

「ちょおお!!!おいおいおい!!神谷、俺センセーんとこ行ってくるわ!!これまじでヤベェだろ!!」

友達はそのままダッシュで行ってしまった。

「…なにやってんのあの子…」

僕は一瞬、救急車か甚三かどちらに電話をかけようか迷った。
だが、ここは弥刀ちゃんを信じて甚三に電話をかけた。

そいつは数コール分置いて、出た。弥刀ちゃんがかけるときは、瞬時にとるくせに。

「甚三、僕。弥刀ちゃんが怪しい車についてった。多分、他の子の誘拐に巻き込まれたんだと思う。いま○○に居るんだけど、来れる??」
『お嬢が?!今から向かう』

そういって、電話は一方的に切れた。


数十分後に黒いベンツはやってきた。
明らかに早いと思った。
バスでのっそり移動しても1時間はかかるというのに、ものの数十分でついてしまった運転手の車に乗るのは大変気が引けたけど、仕方ない。

「どっちの方向に行った」

声も顔もいつもとまったく変わらない、冷静な甚三は僕が扉を閉める前に急発進した。

「あっち。携帯かして」

甚三の胸ポケットから携帯を勝手に取り出す。

「サルにかけろ。下っ端全員使うんだ」
「分かってるよ」

少ないアドレスの登録数から、“サル”の名前を見つける。