銃は何回も見たことあるけど、こんな間近で撃っているところを経験したことがない。

銃声がした後、周りは無音だった。


怖くなって、あたしはやっと目を開けた。

「…え?」

司が白スーツの胸倉を掴んでいた。

え?何で?いつの間に?
銃口は、司に向けられていた筈だ。
その証拠に、白スーツは銃を持っている。

いくら司でも、銃弾を避けられる訳が無い。人間なら。

あたしが呆然としている内に、司の右手は男を殴っていた。

その音は、さっきの銃声より痛々しく、生々しく、容赦が無かった。


男が反撃する隙も与えないで、司は間髪いれずに殴り続けた。

まるで、数分前のあたしみたいだった。何も考えないで、必死に殴り続ける。

「おいクソガキぃ!!てめーの分際でシンヤさんが殴れると思ってんじゃねぇよ!!」

壁に体を打ったままだらしなくへたっていた筈の茶髪は、急に立ち上がった。

白スーツを殴り続けていた司の肩を掴む。

「お前は俺で充分だっての」

茶髪が司に殴りかかる。
それよりも早く、司は左足を茶髪の鳩尾に入れた。

ちがう、いまのはそんなもんじゃない。
思わず口を手で覆ってしまった。そうでもしないと、悲鳴が零れてしまいそうだった。

「っ、ひ」

変な方向に曲がった。
茶髪がその場に座り込んだ。呼吸がおかしい。

司は躊躇無く、そいつの骨を折ったんだ。

そこでやっと、あたしは司の顔を見ることができた。


笑ってない。
だけど、怒ってもなさそうだ。

ただの、無表情。
少し、細い眉を寄せているくらいだ。

茶髪に目もくれず、司は白スーツに向かいあった。

白スーツの頬が妙に凹んでいる。
口から赤黒いゼリーのようなものがどろりと伝った。
鼻血でスーツが赤く汚れる。

「お、おい!てめぇ、堅気じゃねぇのか?!」

白スーツが尻を床につけた。
両手でなんとか頭を保護するみたいに。