「誰だてめぇ!!!」

白スーツの怒鳴り声がする。

誰かが来たんだ。この口ぶりからして、こいつらの敵、あたしの味方。
甚三が来てくれたんだ。

茶髪が立ち上がった。とりあえずの腕の激痛からは逃れられて、ほっとした。


「弥刀ちゃん」


その声に、あたしは心臓が止まりそうになった。

なんで、おまえなんだ。

あたしはゆっくりと顔を上げた。

「つ、かさ…」


制服だ。見慣れている、制服。
だらしなく着こなして、今は腕をまくっている。

目が合ったのは、丁度司が茶髪を殴っているときだった。


そんなに大きく振りかぶっていないのに、茶髪はあっさりと壁に叩き付けられた。

その音が予想以上に大きくて、心臓が飛び跳ねた。

いつの間にか、全身が硬直している。
何でだろう、怖くないはずなのに。手足が思うように動かなかった。
やっとのことで、上体だけを起こす。

「どこの坊ちゃんだよ、ったく、最近のガキは生意気だぜ」

白スーツはあの不気味な笑顔でそう言った。
司の表情はあたしの角度からは見られない。もしかしたらいつもみたいに笑ってるのかもしれないし、何も浮かべてないのかもしれない。

それが逆に、こわかった。

雰囲気が、明らかに違ったんだ。

俯き気味な司から、いつもと違う雰囲気が漂っているのを感じた。


「ガキ1人が女にイイトコ見せようたって早ぇんだよ、お・こ・さ・ま」

白スーツはジャケットの内側から、何かを取り出した。

銃だ。

「ちょっとぉシンヤさん、どうする気ですかぁ」
「俺ぁ面倒ごとは嫌いなんだよ、バラした方が早ぇ」
「誰かに聞かれたらどうすんですか」
「誰も居やしねぇよ、こんなど田舎」

何回か見たことはある。
嫌に黒光りしてて、片手では持てない、ずっしりと重みがあることをあたしは知っている。

「つ、か…」

両手に構えられた小型な銃。
心臓が無意識の内に高鳴った。

銃口が司に向けられる。

無意識の内に、白スーツの人差し指に目が行ってしまう。
何もできないまま、銃口は司に向けられたまま、その人差し指がゆっくりと引き金を引いた。

ただ見ているだけだった。

耳を覆いたくなる物凄い衝撃音で目を瞑ってしまい、そのまま怖くて開けられなかった。