「…わき腹」
「あの時打ったところ?」
「そう」

思わず溜め息をついてしまった。
あいつらの事だから、弥刀ちゃんが今何処を負傷しているのかも分かるはずだ。
相当無理をしたと見える。

「そういえば、絶対安静だったっけ。この間僕と殴り合いした時も痛がってもんね」
「最初のほうは痛くなかったんだけど…。少しずつ痛みが増していたから、限度が分からなかった」
「…仕方無いなぁ、甚三を呼ぶから、少しの間寝てたら?」

きょとんとした顔を僕に向ける弥刀ちゃん。
僕だって、この板の間に寝かせるほど鬼じゃない。

少し動くだけで相当痛いみたいだけど、このままここに居るよりはましだと僕は思う。

「ベッドに運ぶから、少しの間我慢してよ」
「は?!無理無理、動けない!!いいいいいいいいいいいいいいい痛い痛い痛い!!!!!!」

倒れたままの弥刀ちゃんの膝裏に腕をまわす。
もう片方の腕で、なるべくわき腹に触らないように上体を支えた。
細心の注意を払った。それでも弥刀ちゃんは今にも泣きそうな顔で僕を睨み付ける。
確か以前、僕が弥刀ちゃんにお姫様抱っこされたっけ。
あれはびっくりしたなぁ。まさに逞しいと言うか…。

「痛い痛い!!まじで、死ぬ、揺らすな!!」
「そんなんで死ぬわけないないって。ほら、あと少し。…介護してるみたい」
「てめぇ今なんて…、いだだだだだだだ」

部屋に入って、そのまま弥刀ちゃんをベッドに下ろす。
横になった瞬間、弥刀ちゃんの悲鳴は止まった。

これは重症だ。
急いで帰るか病院行くかなんらかの処置をしたほうがよさそうだ。

全く、やせ我慢なんてするから予定が遅くなるんだ。

「…ひどいみたいだね。少し寝てなよ」
「…いまなんじ?」
「1,2時かな。多分。甚三の番号は?」

弥刀ちゃんは渋々無作為に並んだ数字を口にする。
僕はそれを暗記して、リビングにある携帯を取りに行った。

頭の中にある数字を整理して、その番号に掛けてみる。
すぐにそれは繋がった。

「あ、もしもし甚三?僕だけど」

少し時間を置いて、その野太くどすのきいた声は受話器を通して聞こえた。

『…司か。どうした。こっちは大変なんだよ』
「大変?」
『早朝に出掛けたきり弥刀嬢が帰ってこねぇんだ』

僕はソファに腰掛けた。全く、たかだか数時間帰ってこないだけで大事にする甚三は相当過保護だ。

「…弥刀ちゃんは僕の部屋に居るよ。重症。早く迎えに来て」
『てめぇんとこに?』

疑るような声が向こうからする。

「…言っとくけど、僕がやったわけじゃないからね。まぁ、あんまり断言もできないけど」

人の話を最後まで聞かずに、電話は切れた。