「でもあんなでっかいマンション、どうやって手に入れたんだよ」

その言葉に、僕は思わず弥刀ちゃんを振り向いた。
れっきとした極道の娘の癖に、そこらへんは察することができないのだろうか。
どれだけ穏便に過ごしてきたんだ。

「なに、まだわかんないの?普通に考えて、薬とかでしょ」
「はぁ?」

そう言うと、弥刀ちゃんはすぐに感づいたかのように眉を寄せた。
そこらへんの勘はいいみたいだ。

「なんでばれないんだよ」
「上手なんだよ、あいつら。伊達に人生逸れてないよ」

そう、上手なんだ。
煙みたいに逃げて、証拠は残さない。そして、証拠が残るほど大きなアクションもとっていない。
そういう仕事に慣れているからこそ、あいつらはそれが得意なんだ。
僕だってあんな繊細に仕事できない。絶対何かしちゃう。


「…司もやってんの」
「僕はそういう面倒なことはしない。ただ、たまに顔出すくらい」

ただ、あそこが僕の居場所なだけ。
それ以上でも、それ未満でもない。

レイジと2人で居たら、気付いたら1人2人と同じような境遇の奴らが集まってきた。
世界とは少しづつずれて行ってしまう人間の集まり。
どうしても、人と合わせる協調性が無い人間の集まり。

いつの間にか、組織みたいになって、仲間も増えた。

ただ、それだけのこと。

ただの、僕の家のようなところ。




「ねぇ、ここ」

僕の塒としているマンションの前で、弥刀ちゃんは何かに気付いたのか、立ち止まった。
弥刀ちゃんの腕を引いて、マンション内に入る。

マンション内の空気は暖かいわけじゃなかったけど、外の空気よりは随分とましだ。

まだ怪訝そうな弥刀ちゃんをエレベーターに押し込む。
いつも暴れる弥刀ちゃんは、今日は流石に暴れる気力もないみたい。
まぁ、あんなにリンチ同然のことをされていちゃあ当たり前かもしれない。
それでも噛み付いてくる弥刀ちゃんに、むしろ尊敬の意を向けないと。