「おいクソアマ!!その汚ねぇ手を離せ!」

後ろからちゃらついた男に肩を引っ張られる。

「…邪魔、すんな!!」

反射で、そいつの顔面を殴ってしまった。
右手の痛みにはっと我に帰る。

「ご、ごめん…」

周りの全員が有り得ないようなものをみる目であたしを見ている。
司さんの胸倉を掴んだぞ、とか、そんなことを影でひそひそと喋っていた。

つい殴ってしまった事を謝るあたしを、声をあげて笑う司を睨んだ。

「…最高」
「…なに笑ってんだよ」

もう1度司に向き合った。
司はいつもと同じように、口元に笑みを浮かべていた。

「…あたしは、絶対認めない」
「なにを?」
「あんたが京極にふさわしいわけ、ぐ、」

一瞬で司の手の平があたしの口もとを押さえた。
いつの間にか目は笑っていない。

「おい、司。てめぇそのアマとなんの関係があんだよ」

金髪がふてぶてしくそう言った。

「ねぇ、レイジ。ルールを忘れた気?干渉するなって言ってるんだよ」

金髪がびくりと飛び跳ねる。なんだ、さっきまで強情な態度だったのに。
周りも空気が張り詰めている。
あたしも、聞いたこと無い司の低い声に、少し萎縮した。

なんだ、こいつ、全然いつもと雰囲気が違う。
凍りつく、ってこのことだ。

あたしの口元は押さえたままで、司は立ち上がった。
どうやら外に出るようだ。

「はな、せ!」

司の手を叩き落す。
そんなあたしを見て、司は可笑しそうに笑うだけだった。

ふ、と我に返った。
自然に部屋から出れたな、と。
最初から暴れないで、大人しく待っておけばよかったな。心底思った。


「あー、びっくりしたよ。いきなり、レイジから“この間のひったくり邪魔した女捕まえた”って連絡きたからさぁ。がっつり弥刀ちゃんだよね」

部屋を出ると、すぐに玄関のようなところに出た。
そこを出ると、立派なロビー。
どうやらマンションのようだけど、あたしと同い年くらいの奴らが何でこんな立派なマンションに居るんだ。

「僕が来てよかったでしょ?“報復”させられないですんだし」

外の寒風が体に直撃した。
生傷が凍みる。

“報復”。
そんな言葉を当たり前に使うような奴だったんだ。

「…っこの!!!」

気付いたら、司を殴っていた。